2024年11月23日(土)

食卓が変わる日

2018年10月10日

(photka/gettyimages)

 50年間保存できる水の缶詰をご存じだろうか。

 アメリカの商品で「BLUE-CAN」という。今から購入して、何事もなければ、保存期間より私の寿命のほうが確実に先にくる。終活ばやりの昨今、水を残して逝くのかと思うと、なにやら釈然としないところもあるが、これだけ長期間保存できるものがあれば安心だろう、とは思う。

心もとない万一の準備

 足元にある地面は、思いもよらず脆いものだった。

 1995年1月の阪神・淡路大震災に始まり、2004年10月の新潟県中越地震、2011年3月の東日本大震災、2016年4月の熊本地震、そしてこの9月6日には北海道胆振東部地震と立て続けに大地震に見舞われた日本列島。この地面の下はどうなっているのだろうと、思わずにはいられない。

 地震だけではない。風水害に土砂災害と、近年、私たちは自然災害と常に隣り合わせで暮らしている。

 阪神・淡路大震災を経験してから、防災袋を準備した人は増えたはずだ。ところが、である。「のど元過ぎれば…」という日本人の習性のせいか、いや、私個人の習性なのだろうが、わが家では10数年前に準備した防災袋が埃をかぶって下駄箱の隅に鎮座している。そうした家庭も多いのではないだろうか。

 企業も準備万端とはいかないようだ。

 知り合いの中小企業の総務担当者に聞いたところ、「東日本大震災のあと、社員のための非常食として3日間分を初めて購入した」という答えが返ってきた。保存期間(賞味期限)がたったところで社員に配布して自宅で食べてもらうため、また、万一の時にも食べることくらいは楽しくしたいと考え、おいしさ優先でレトルトパウチ食品を選んだが、保管場所には苦労しているとも話していた。

ハラール認証の災害食、クッキーやトマトリゾットも登場

 災害時に備えた食料や水は、度重なる教訓をもとに大きく進化している。その一端を紹介しよう。

 グリーンケミーは、防衛省にも保存食を納入している企業で、その技術力には定評がある。

 たとえば、「10年保存クッキー」は加圧加熱殺菌の技術によりマイナス20℃から80℃までの温度で、10年間の長期保存が可能だ。屋外の倉庫でも車内でも備蓄できるというから、住宅事情の悪い日本では倉庫代わりに車のトランクを使える点で、非常に便利なものだ。もし車で出かけていて災害にあった場合にも、大いに役立つだろう。

 さらに、「7年保存米粉クッキー」は食物アレルギーを引き起こす可能性が高い特定原材料等27品目と貝類を使っていないため、アレルギーが心配な子どもにも安心して食べさせることができる。災害時の混乱したなかで、アレルギーに対応した食事を提供することは容易ではないだろう。グリーンケミーのチーフアドバイザー冨倉元氏によると、主な納入先は学校や病院、自治体、空港、大型遊戯施設など多岐にわたるという。

 「7年保存レトルト食品」は、わかめご飯やトマトリゾットなど5種類がある。気密性と遮光性に優れた容器を開発し、120℃で加圧・加熱殺菌をして、食品の菌の繁殖を防いでいる。レトルトパウチ食品の進化は目覚ましく、今まで自衛隊は戦闘糧食に缶詰を使っていたが、2016年からはすべてレトルトパウチ食品に変えている。冨倉氏によると、軽くて食べた後の容器がコンパクトになる点が評価されたという。

 アレルギー対応の工場で作った米粉クッキー、米を使ったレトルト食品ともハラール認証を受けている。つまり、イスラム教の人々にも提供できる。実際、東南アジアからの問い合わせも多い。災害時における外国人に対する情報提供の不備が問題視されているが、観光立国を目指す日本としては、ハラールにも対応する必要があるだろう。不特定多数の人が集まる大規模商業施設などでは必須の災害食といえる。

 もう一つ、絶対に欠かせないのが飲み水だ。グリーンケミーの「10年保存水」は、NASAでも使われている高性能のフィルターRO膜(逆浸透膜)で3回濾過し、99.9%の不純物を除去した硬度ゼロの純水だ。さらに、酸素透過率の低いペットボトルを開発し、オゾン殺菌を施すことにより、10年間の長期保存が可能になった。純水は、常温でも粉ミルクが溶けやすいというメリットがある。また、薬を服用する人にも、ミネラル(カルシウムとマグネシウム)が含まれていないぶん、安全で安心だ。ちなみに、グリーンケミーでも16年保管したサンプル水を持っているという。果たして「BLUE CAN」のように50年変わらず品質を保てるのかどうか。しかし、水そのものだけでなく、容器の劣化や保存状況によるリスクの大きさを考えれば、10年がマックスだろうと冨倉氏はいう。「そもそも、それほど長期間保存できるものが必要なんでしょうか」。ごもっとも。

 グリーンケミーは事業所や家庭用として、クッキー3袋、レトルトパン3袋、レトルトご飯3袋に「7年保存水」(500ml)3本をセットして1人3日分を1箱にまとめた「CUBE-7 Years」を販売している。9食分すべてをアレルギー対応にしたセットもある。


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