ベジタリアンにもいろいろなカテゴリーがある
ベジタリアンには、ちょっとした誤解があるように思いまので、まずその誤解を解いておきましょう。
1つ目。ベジタリアンは野菜を意味する「ベジタブル」に由来すると思っている人がいるかもしれません。しかし、ベジタブルはまったく関係ありません。言葉の由来は後ほどご説明しましょう。
2つ目。ベジタリアンというと、「野菜だけを食べている人」というイメージがあるかもしれません。しかし、これも違います。ベジタリアンでも卵や乳製品を食べる人がいます。アメリカの栄養士の職能団体であるアメリカ栄養士会ではベジタリアンを次のように分類しています。
- ビーガン:蜂蜜を含め、一切の動物性食品を食べない
- オボ・ベジタリアン:乳製品は食べないが、卵は食べる
- ラクト・ベジタリアン:卵は食べないが、乳製品は食べる
- ラクト・オボ・ベジタリアン:乳製品と卵は食べる
- ベジタリアン:卵・乳製品は食べても食べなくてもよい
- ロー・ベジタリアン:加熱していない食品が全体の75~100%を占める
上記のようなベジタリアンの分類は、国や地域の団体や協会ごとに異なります。仏教、イスラム教、ヒンズー教などの宗教の禁忌で分類すれば、このカテゴリーはもっと多くなります。
ベジタリアンは基本的に肉や魚などの動物性食品は口にしませんが、そのスタイルは多様なのです。ビーガンでは、衣食住すべてにおいて動物性のものは用いません。革のバッグもシルクの下着も羽毛の布団も使わない。その一方で、「できるだけ肉を食べないようにしている」セミベジタリアンといわれる人もいますから、そのすそ野はかなり広いといえます。いずれにしても、このようにさまざまなカテゴリーがあることを知っておくのは非常に大切です。
持続可能性を求めて
ベジタリアンが増えている
もともとベジタリアンは「活気ある・力強い」というラテン語vegetus(ベジタス)に由来するといわれています。
ベジタリアンになる理由はさまざまですが、ジェトロがベジタリアン発祥の地であるイギリスで行った「英国ベジタリアン食品調査」(2015年)によると、
- 倫理的な理由(動物愛護や環境保護など)
- 健康志向(肥満対策など)
- 食品安全志向
- 宗教上の理由(ヒンドゥー教や仏教など)
- ライフスタイル、健康な食生活(より自然でクリーンな食べ物)
などが挙げられています。世界的に見れば、宗教上の理由は大きいのでしょうが、必ずしもそればかりではありません。
このところは、上記1に関連して環境の持続可能性や食の持続可能性を求める世界的な潮流によって支持され、ベジタリアンが増えているようです。実際、私がサポートしているトップアスリートの外国人選手の中にも、環境保護に貢献するためにベジタリアンになったと話している人もいます。肉食を減らすことは牛などの排泄物から出るメタンガスを減少させ地球温暖化の防止につながること、また家畜のエサとなる飼料用穀物を減らせるためより多くの人々に穀物が行き渡ることになって食料問題の解決に貢献できることなどは、大きな動機付けになっているようです。
ベジタリアンはもはや特別ではない
ベジタリアン人口は世界で9億人にも達するという説があるほど一般的になっています。9億人の真偽のほどは、正確なデータがないためわかりませんが、アメリカの若者(18~34歳)の6%がベジタリアン、もしくは動物性食品を一切口にしないビーガンという報告があります。
先のジェトロの調査でも、さまざまな民族や宗教が混在するイギリスでは、多様な食文化が共存しておりベジタリアン向けのメニューを提供することは一般的になっているとあります。
世界では、ベジタリアンは日本人が思うほど特別ではないのです。いえ、実は日本でも、ベジタリアンは珍しくはありません。日本には古くから、生き物の命を奪うことを禁じる「不殺生戒」という考えに基づく精進料理があります。これこそ、ベジタリアンです。
精進料理はもともと仏教の戒律から生まれた料理で、命をいただくという感謝の気持ちを大切にし、料理をいただくときは精神を整え、集中し、心を込めて味わうなど、精神性をも大切にした料理です。野菜の皮や葉まで残さず工夫して調理するほか、大豆や大豆製品などを使って植物性たんぱく質をしっかり確保。旬の食材を無駄なく使う点では、持続可能性にもかなった食べ方です。