2024年4月17日(水)

進化する「食」

2018年8月10日

ベジタリアンマーケットをつかめ

 この精進料理をもっと世界にアピールすべきだと、私は常々考えています。野菜はもちろん、豆、きのこ、ナッツ、果物、海藻などを口にするベジタリアンと精進料理は、素材の部分で同じです。だしにしても、精進料理では昆布やしいたけ、大豆、野菜などでとりますから、ベジタリアンでも問題なし。

 仏教的な意味から逸脱するとのお叱りの声があるかもしれませんが、日本各地の食材や郷土料理などを精進料理に取り入れ、海外の人にも喜ばれそうなエッセンスを加えた「ベジタリアン和食」が提供できれば、持続可能性にも配慮した取り組みとして、世界に発信できると思うのです。そして、いまがそのチャンスなのです。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックの外国人来場者は17日間でのべ1500万人と予想されています。この人たちのなかに、ベジタリアンも大勢います。

 もちろん、ベジタリアンだけでなく、グルテンフリーの人もオーガニックの人もいるでしょう。宗教の禁忌として食べ物が制限されている人も大勢います。居ながらにしてあらゆる国のおいしい料理を食べられる大方の日本人は、食事に一定の規律を設けて生活している人々のことは実感できにくいかもしれません。しかし、こうした食の多様性を理解しなければ、「おもてなし」はできません。

 おもてなしはお客さまのニーズに応えることです。食事でいえば、「日本の食事はどれもおいしい」という思い込みは避けなければいけません。

 私はしばしば、海外のトップアスリートが日本へ来た時の食事のサポートを依頼されます。彼らがホテルに宿泊する際には、そのホテルで提供される食事について細かくチェックします。アスリートがどんな食事を好むのか、ベジタリアンなのかグルテンフリーなのかといったことも事前に聞き取り、調理法や食材のアドバイスをします。そうしたときに、「うちの食事は絶対においしいから、口をはさまないでほしい」というシェフに出会うことがあります。確かに日本人にとってはおいしいのですが、顧客であるアスリートが満足しなければおもてなしをしたことにはなりません。

 東京オリンピック・パラリンピックを契機に、食の多様性の一つとしてベジタリアン和食を提供し、それを食べた人たちにまた日本の来たいと思っていただければ、最高のおもてなしができたことになるのではないでしょうか。

(編集・鮎川京子)

  
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