2024年7月12日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年7月21日

 こうして要素を並べていくと、中国はいよいよ“世界の工場”としての魅力を失ってゆく時期を迎えたことがよくわかる。中国国内の専門家(清家大学李稲葵教授や復旦大学陸銘教授など)の多くも、少なくとも2015年くらいには中国経済が下り坂に差し掛かると指摘する。

 これが中国にとって“痛みをともなう構造転換”の時期であることは間違いない。アメリカの著名な経済学者は、すでに人口ボーナスを使い果たした日本と比較して、「日本は金持ちになって老人になったが、中国は金持ちになる前に老人になった」と中国の現状を表現している。

 これはバブル崩壊といった短期的な負傷ではなく、“スロー・デス”に近い。

経済失速の前に打ち上げる花火

 だが、こう書くとたいていの日本人は、中国人が暗い表情で落ち込む明日を思い浮かべるが、残念ながら現実はむしろ逆だ。

 理由は明白だが、元を上げて賃金を上昇させ、内需型にシフトさせるというのだから、対ドルでの所得は一気に膨らむことは必然だからだ。今後数年間、中国企業や中国人の世界での消費が急速に高まり、日本での中国プレゼンスが強まるのも避けられない。

 もし原発事故で離れた観光客が戻ってくれば、彼らの平均消費額が一気に倍増してもおかしくないだろう。

 そして企業の買収はそれ以上のスピードで広がるはずだ。インフレを何より恐れる政府はいま、国内に停滞するマネーを何とか外に逃がしたいと考え始めたからだ。

 今年、ボアオ・アジア・フォーラムで演説した胡錦濤主席は、こんな発言をしている。

 「第12次5カ年計画の始まる今年は中国とアジアの国々にとって重要な年。今後5年間、中国は海外進出戦略に力を入れ国内企業の対外投資を後押しする」

 まさに、かつて不発に終わった『走出去』(2000年代初めごろに進められた対外進出促進政策)の現代版で、今後の中国ではこれまで厳格に行ってきた外貨管理の制限を大幅に緩和することも予測されているのだ。

 こうなれば、これまであまり食指を動かしてこなかった日本こそ絶好のターゲットになると思われるのだ。

 凄まじい勢いで流れ込むチャイナマネーと高まる中国のプレゼンス。その一方で中国経済の衰退がゆっくりと進行する――。そんなねじれた光景が日本人の目の前で繰り広げられることだろう。

 だが、日本人はこうした矛盾を抱える中国が、経済失速の前に打ち上げる花火、最後のビッグウェーブをつかむことを忘れてはならないのだ。

 

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜


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