2024年4月26日(金)

食の安全 常識・非常識

2011年7月29日

 また、牛乳を生産する酪農の場合は、肉用牛と同じように穀物や油かすなどの「濃厚飼料」と、牧草や稲わらなど繊維質中心の「粗飼料」の両方が与えられますが、粗飼料は稲わらでは栄養が足りず、もっと栄養価が高いマメ科の牧草などが与えられることが多いとされています。牛乳は、複数の生産者の原乳が集められた「クールステーション」や乳業工場で頻繁に検査が行われており、4月半ば以降はほぼ、全品不検出が続いています。

 ジャーナリストの中には「肉牛だけであるはずがない。ほかにも汚染が隠蔽されているはず」などと、十把一絡げで論評する人がいますし、国や県のせいだと断罪するメディアもあります。なるほど、分かりやすく小気味良い。しかし、食品の生産は品目によって大きく違います。だからこそ、食の安全は国や県だけでは守れず、生産や流通にかかわるすべての人に、一定の科学的知識や実践を要求するのです。

 そして、なにごとにもミスや盲点はあり、特に今回のような緊急時には、対応に漏れも起きます。その漏れにしっかりと向き合い対処し、次の漏れに備えきめ細かにチェックしていく作業が、真の食の安全を守るには必要です。

検査の大幅拡充は無理

 生産現場の問題点が明らかになると、「ならば、検査で全頭確認するしかない」という声があがります。各県はなだれを打つように全頭検査を宣言しています。しかし、その弊害は小さくありません。

 現在は、検査できる機関の数が足りず、県や民間等が検査を奪い合っています。新たに分析機器を導入しようにも、公に定められた検査法(公定法)で用いられるゲルマニウム半導体検出器は1500〜2000万円、公定法ではなく限界はあるものの、なんとか同等に使える「簡易スペクトロメータ」は250万円。それに加えて、設置場所や分析機器、ソフトウェアを使いこなす人材、研修が必要で、すぐに検査体制を拡充するのは無理です。

 ガイガーカウンター等で測定するのは意味がありません。インターネットなどでも安価で売られていますが、表面の汚染しか調べられず、感度が悪く、暫定規制値を超えるか超えないか、というような食品中の微量の放射線量は測定できません。また、環境中の放射線も数値に含んでしまい誤差が極めて大きく、参考にはなりません。

 検査のキャパシティが足りないため、農水省は放射性物質汚染の程度が高い「計画的避難区域」「緊急時避難準備区域」等については、全頭を検査し、それ以外の福島県内については、農家ごとに初回出荷牛のうちの1頭以上を検査し、暫定規制値を下回った場合には販売を認めることとしました。農家が一緒に肥育している牛であれば、同じ餌、水であり、同じ製造ロットとみなせる、という考え方です。

 また、他地域については、餌に関する指導を農家に徹底し、併せて牛の出荷や流通の中で効果的なサンプリングを行い検査して対応することを求めています。

 無理に牛の検査数を増やすと、そもそも検査のキャパシティが不足しているのですから、かならずほかに支障が出ます。つまり現状、牛肉の検査を増やすと、ほかの食品や牧草などのモニタリング検査を減らさざるを得ないのです。


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