2024年4月20日(土)

食の安全 常識・非常識

2011年7月29日

(1) 外に置いていた稲わらを、与えてはいけないと知りながら与えてしまった(南相馬市の畜産農家)
(2) 事故後しばらく、野菜は出荷制限がかかり、牧草も屋外にあったものについては利用してはいけないとされた地域であるにもかかわらず、屋外にあった稲わらに疑問を抱かず牛に与えてしまった(福島県や近県の畜産農家)
(3) 宮城県の業者から稲わらを購入し与えてしまった(静岡県や新潟県などの畜産農家)

 (1)は論外でしょう。(2)に関係する畜産農家らは、「稲わらは与えてはいけないということを知らなかった」「情報が国や県などから伝わってこなかった」と、テレビインタビューなどで主張しています。しかし、野菜は出荷制限がかかり、牧草も屋外のものは利用不可であることは、彼らも知っていたはず。なのに、「稲わらは屋外でも問題なし」とした思考には首を傾げたくなります。 

 農水省の3月19日の通知には確かに稲わらの文字はないのですが、実は多くの畜産関係者は「稲わらも、事故当時屋外にあったものは与えてはいけない」ときちんと読み取っていました。福島県の調べでは、県の511戸あまりの肉用牛肥育農家のうち、汚染されたとみられる稲わらを与えて出荷していたのは16戸です。栃木県では、酪農家から稲わらを買った肉牛の肥育農家が飼料として用いてしまったことが7月22日、判明しましたが、酪農家は売った際には「餌には使えない」と伝えていたといいます。つまりは、屋外の稲わらは問題があると、酪農家は明確に意識していました。また、生協の中には事故直後、契約農家に「昨年中に刈り取り屋内保管していた牧草や稲わら以外は与えないように」と指示していたところもありました。

 厚労省が、これまでのさまざまな食品の検査結果を公表しています。それを見ると、福島県や近県産であっても放射性セシウムが検出されていないか十分に低い牛肉が多数あり、適切な飼料管理をしていた生産者も多いことが読み取れます。

太線で囲った地域は大気中の放射線レベルが通常よりも高かった都県。放射性物質が降下したとみられ、事故直後は放牧や屋外にあった粗飼料(牧草や乾草など)の利用自粛などが求められた。その後、牧草などの検査を基に徐々に自粛が解除されている。斜線は、自粛が全面的に解除された地域。グレーは肉用牛、乳用牛についてはまだ制限されている地域
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 要するに、畜産農家が「放射性物質が付着したものは家畜に食べさせない」という汚染を防ぐ科学的根拠をきちんと理解していれば、稲わらにも自ら疑問を抱いてしかるべき、なのです。

 (3)についても(2)と同様の理由から疑問が残ります。宮城県も事故後、まず県全域の畜産農家に対して屋外の牧草等の利用を控えるよう周知し、その後、モニタリング検査の結果に基づいて少しずつ利用可能地域を広げてきた経緯があります。野菜の出荷制限も行われていました。稲わらを集めて他県の畜産農家に売った業者は、そのことになぜ気付けなかったのでしょうか? 「原発事故前に集め屋内保管していた稲わらか」とわざわざ業者に尋ね確認して購入した茨城県の畜産農家は、念のために調べてもらった検査で稲わらから高濃度の放射性セシウムが検出され、がっくりと肩を落としていたそうです。畜産農家は適正な生産管理をしようと努力したのに、業者に裏切られてしまったのです。

 ちなみに、ほかの家畜に対しても不安が高まっていますが、事情はまったく異なります。豚や鶏には主に、穀物やダイズ油かすなどを配合した飼料が与えられており、大半は輸入されています。野菜や食品廃棄物が餌となる場合もあるため、放射性セシウムが検出される事例もあるとみられますが、与える量が少ないため牛肉のような高汚染は考えにくいでしょう。


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