2024年4月27日(土)

WEDGE REPORT

2018年10月29日

「自前主義」と「外注」
ビッグ2の物流戦略

 中国ではアリババグループと京東集団という二大EC企業が自ら物流の改善に乗りだしている。

 中国EC第二位の京東集団は1998年にパソコンサプライ用品のショップ「360BUY」としてスタート。2004年からECに進出したが、すぐに大きな課題に直面した。物が届かない、壊れているなどのクレームが殺到したのだ。配送の質がひどすぎたためだ。

 どのEC事業者も抱えていた悩みだったが、京東集団の解決策は独特のものだった。物流をすべて自社でカバーしようと07年から自前の倉庫、配送員の整備を始めた。着々と整備は進み、今では中国全土に15カ所の基幹倉庫、500カ所以上の大型倉庫を保持。7万人もの物流従業員を正社員として雇用している。

京東集団は倉庫の自動化を進めている(JD.COM)

 この自前主義はテクノロジーの分野にも反映されている。新技術を開発するX事業部では現在、倉庫用ロボット、巡回用ロボット・ドローン、輸送用ドローン、無人配送車の4分野を中心にハードウェアの自社開発を進めているほか、昨年には世界初となる完全無人倉庫の運営を開始した。

「洗濯機や冷蔵庫といった高価な大型家電なら配送で壊されないように京東集団のECサイトで購入する」(天津市在住の女性)。膨大な数の配送員を雇用するなど、多大な固定費を支出してまで追い求めた物流品質は中国の消費者から高く評価されている。

 従来は自社ECのサービスの一環として物流事業を行っていた京東集団だが、17年には物流部門を京東物流として子会社化。他社にもサービスを開放するなど、物流企業としての独自の成長も摸索している。5年以内に売り上げ1000億元(約1兆6000億円)、外部への提供比率を50%以上に高めることが目的だという。ロボットを含めたスマート倉庫システムは、既に中国高級白酒最大手・貴州茅台酒の倉庫に導入されている。

 EC事業で後発の京東集団の成長は、中国IT業界の巨頭アリババグループをも焦らせるものだった。アリババの創業者ジャック・マー(馬雲)は物流には進出しないと公言していたが、その言葉を翻し、13年に物流子会社の菜鳥網絡を設立する。

 菜鳥の取り組みは京東物流とは対照的だ。自社のトラックや配送員は持たず、既存の物流企業にシステムを提供して連携することで配送を行っている。送り状の電子化・標準化から始まり、中国全土の住所データベースの整備という国家レベルの仕事まで手がけている。都市再開発が急速に進む中国では住所がころころと変わる。日本のように送り主がフリーハンドで住所を入力するようなことがあれば、目的地がないということもありうる。そこで菜鳥は独自の住所データベースを整備し、登録されたデータベースから住所を選択するシステムを提供している。

 さらにAI(人工知能)の活用も積極的だ。菜鳥のスマート倉庫システムではAIによって使うダンボールのサイズを自動的に算出する。一人の顧客が皿とコップ、包丁を買ったとして、どのサイズの箱ならばジャストフィットするのかを瞬時に算出する。この技術によって年間7500万個ものダンボールの節約につながったという。

 これらの菜鳥の提供する物流システムは、浙江省杭州市を拠点とする、大手宅配企業5社「四通一達」(圓通速逓、申通快逓、中通快逓、百世匯通、韵達快逓の総称)を中心に約3000社もの物流企業が活用している。

 アリババは菜鳥創業時に1000億元の投資を宣言。5周年を迎えた今年、さらに1000億元を投資すると発表した。日本円にして3兆円を超える巨大投資だ。

 こうした両社の激しい競争が中国の物流サービスのレベルアップにつながってきた。巨大な投資余力を持つ二大EC企業が本腰を入れたことで、中国の物流環境は一気に変わった。


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