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2018年11月21日

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松田康博 (まつだ・やすひろ)

東京大学東洋文化研究所教授

1965年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、博士(法学)。防衛庁防衛研究所主任研究官、東京大学東洋文化研究所准教授などを経て、2011年より現職。近著に『現代台湾の政治経済と中台関係』(共著、晃洋書房)など。

 

 第三は、アメリカの支援と中国への反撃である。中国の対台湾圧力が高まるにつれ、アメリカは対台湾支援を強化した。国防授権法は米台の軍事協力強化を謳(うた)い、台湾旅行法は米台双方の政府高官の相互訪問を許した。ここで台湾側も、中国の外交圧力に対抗して、中国の一部政権幹部の台湾渡航を制限したり、馬政権下で使われていた「中国大陸」という用語の代わりに、「中国」という、あたかも中国を外国視するかのような用語を使い出したりするなど、独立派に配慮し始めている。

入り組んだ蔡英文再選への道

 しかしながら、いったん定着した負のイメージを払拭するのは容易ではない。税制改革などの恩恵が実感されるのは19年以降であり、20年の総統選挙には間に合うかもしれない。しかし統一地方選挙には間に合わない。もしも敗北したら、中国および親中勢力は、一斉に「中国との関係悪化が選挙敗北の原因である」という宣伝をして、再選阻止に動くであろう。だからこそ、台湾の統一地方選挙結果は見逃せないのである。

 したがって、選挙の勝敗ラインが重要である。民進党も国民党も敗北すれば主席は辞任するのが慣例である。今回はあらゆる地方公職選挙が同時に行われるが、重要なのは六大直轄市の首長選挙の勝敗と、総得票数で民進党が相対多数を獲得するかどうかである。

 直轄市のうち、高雄、台南、桃園は民進党が首長選挙を制するとみてよい。他方もしも台中の現職・林佳龍市長が再選に失敗したら、蔡政権の敗北は明確となるが、台中の選挙はそれほど国民党有利な状況にはない。

 やはり最大の焦点は、人口密集地の新北市と台北市である。新北市は、国民党の現職が退き、前副市長が立候補して優勢を維持し、現状維持が見込まれる。 台北市は従来国民党の金城湯池であったが、4年前に無所属の柯文哲(元外科医)が民進党の支援を受けて国民党候補を退けた。今回、柯文哲は、中国との良好な関係を維持していることで、民進党を支持する台湾独立派との関係が決定的に悪化した。このため、民進党も候補を立てざるを得ず、台北は三つ巴の選挙となっている。

 もしも、民進党と柯文哲の分裂により、国民党が漁夫の利を得て台北市長に当選するなら、それは民進党の敗北となる。ところが、もしも柯が市長に再選されると、三つ巴になっても勝てる政治家という評価が得られ、勢いに乗って20年の総統選挙に立候補するかもしれない。柯は自らが当選できなくても、蔡英文の再選を阻むくらいの影響力はある。つまりどっちに転んでも、蔡にとっては悩ましい結果となる。

 また、もしも民進党候補への総得票数が、依然国民党を大きく上回っていれば、蔡総統再選の赤信号にはならない。負けて党主席を辞任したとしても、代わりに盟友の陳菊・総統府秘書長が党主席になって蔡を引き続き支えるはずだ。

 しかも皮肉なことに、国民党が勝利したと見なされると、呉敦義は国民党主席辞任の必要がなくなり、20年の総統選挙に出馬する可能性がでる。呉主席はベテラン政治家ではあるが、主要政治家の中で最も高齢で人気がなく、蔡にとっては楽な相手である。つまり、今回民進党が小さな「敗北」をした場合、それが「塞翁が馬」になる可能性も否定できない。

 蔡英文再選への道は、複雑な要因が絡み合っている。まずは地方選の結果を確認しよう。

  
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◆Wedge2018年11月号より

 

 

 

 

 


 

 

 

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