2022年7月7日(木)

使えない上司・使えない部下

2018年10月24日

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Q 私が取材した日本人選手は、「事前に試合の結果や試合展開は決まっていたが、試合では手加減はしなかった。手加減は、相手の選手に失礼」と話していました。日本人選手と外国人選手が試合をするときは、事前の打ち合わせはどうなるのでしょうか?

私がレフェリーで、マッチメイカーでもあったときは、まず、日本人選手の控室に行って、たとえば、猪木さんに、「今日の試合はこのように考えていますが、どうですか?」と聞きます。通常は「OK」とか、「高橋、ここのところはこうしようよ」という返事が返ってくるものです。それを受けて、今度は私が外国人選手の控室へ行きます。そして、「今日はこういう試合展開にしたいと思っているんだ。何か、リクエストはある?」などと尋ねます。リクエストがある場合もあれば、ない場合もあります。ある場合は選手が「ここのところは、こうしたい」と言ってきます。再び、猪木さんのもとへ戻り、そのリクエストを伝えます。それで猪木さんが「わかった。そうしよう」となり、猪木さんと外国人がリングに上がります

ここで、レフェリーとして仕事をするうえで大切なことがあります。それは、試合前に選手のコンディションやケガをしているならば、その状態などを確認しておくことです。ほとんどの選手が「足が痛い」とか、「腰が痛む」などとは言いません。だからこそ、レフリーはふだんから一緒にトレーニングをして体調を知っておくことが重要です。

たとえば、猪木さんが膝を痛めているとわかったら、試合前に相手の選手にそっと伝えるのです。「今日は猪木さん膝の調子が悪いから、そこは手加減をしてやってほしい」などと言います。ほとんどの選手が「わかった」と答えます。猪木さんから、そのように相手の選手に言ってくれ、と頼まれたことは1度もありません。ほかの選手からも、同様の依頼を受けたことはありません。私の一存です。

日ごろから、選手のことをよく観察し、レフェリーである私の気持ちとして相手の選手にケガをしている部位を話すだけで、彼らはプロですからすぐに理解します。このようなことをしないと、事情を知らない選手がガンガンと相手を攻撃したら、ケガがよりひどくなります。最悪の場合もありうるのです。それを避けるようにするのが、レフェリーの仕事でもあります。

Q 奥が深いですね。当時、レフェリーとして仕事をするうえで、やりやすかった選手はどなたでしょうか?

高橋:日本人では、ダントツで猪木さんです。相手の選手の持ち味を引き出すことは、天才的です。どんなにしょっぱい選手であろうとも、技を受けて受けまくり、相手を光るようにするのです。そして、試合の見せ場を見事につくります。会場のお客さんを興奮させ、試合に引き込むのです。まさに猪木ワールドです。当時、私は「天才」という言葉で人を形容するならば、この人がふさわしいと思っていました。ストーリーを熟知してリングに上がっている私ですら、猪木さんが激怒した顔をすると、震え上がる思いでした。あの怒りの表情はすごい。

 日本人選手では藤波さん、藤原さん、キラーカーンなども、レフェリーとして仕事がしやすかったです。ほかにも、当時(の新日本プロレスには)、たくさんいました。外国人選手では、ジャイアント、(ディック・)マッ―ドック、(ダスティ・)ローデス、
(パット・)パターソンなどです。この外国人選手たちは、日本にいるときは練習やトレーニングはしなかったのです。ところが、試合では実に上手い。これもまた、「天才」なのでしょうね。

 ちなみに、プロレス界の多くの人から信頼されていたラッシャー木村さんは、決して他人の悪口を言わない人でした。後輩である私の指示にも極めて柔順でしたね。訃報を聞いたときには、思わず涙しました。

ミスター高橋(高橋輝男)、健康運動指導士。1941年、横浜市生まれ。スポーツ歴は柔道やパワーリフティングなど。1972年、新日本プロレスに入団。25年にわたり、レフェリーとして2万試合以上裁く。語学力を生かし、外国人選手の担当としても活躍。一時期は、審判部長やマッチメイカーなどを務める。1998年に引退し、新日本プロレスを退団。その後、警備会社の教育部に勤務後、高校で「基礎体力講座」の講師を務める。現在、高齢者の介護予防運動指導や執筆・講演活動などを行う。NPO日本チューブ体操連盟貯筋倶楽部理事長。著書に『流血の魔術 最強の演技』 (講談社)、『悪役レスラーのやさしい素顔』(双葉社)『知らなきゃよかった プロレス界の残念な伝説』(宝島)など多数。ウェブサイト「GoGetterz」の「ミスター高橋が教える、高齢にもやさしいノンロック筋トレ法」で、中高年向け筋トレ法を教える。


                             次回(最終回)に続く

  
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