安保激変

2018年10月22日

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村野 将 (むらの・まさし)

ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て現職。日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program,米国務省International Visitor LeadershipProgram(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

米国で再燃するINF論争

 ロシアの条約違反を明示した2014年以降も、オバマ政権は「INF条約を維持することが米国を含む各国の利益にかなう」とする立場を維持してきた。そうした態度は、オバマ政権が核兵器の削減・役割低減を標榜し、軍縮・軍備管理政策の履行を重視してきたことと無関係ではなかったように思われる。

 しかしながら、米国の安全保障コミュニティでは2014年頃を境に、INF条約の今日的意義をめぐる論争が活発化してきていた。当時それらの主張は、戦略環境に対する現状認識や、INF条約対象国を多角化することへの実現可能性に対する評価の違いから、従来通り条約を堅持すべきとする「INF条約維持派」と、 INFの再配備を検討する戦略的柔軟性を確保すべきとする「INF条約破棄・見直し派」とに大別されていたが、ロシアによるGLCM配備が確実となったことで、次第に「条約維持派」の前提を踏まえながらも、「条約破棄・見直し派」が提言してきたような積極的な対抗手段を検討すべきとの議論が取り入れられるようになっていった。

 例えば、2017年2月16日には、トム・コットン上院議員(*同議員はマティス国防長官の後任候補に名前があがっている)をはじめとする一部の共和党議員が、INF条約を維持しながらも、その対抗手段を検討すべきという法案を提出している。

 その内容は、「トマホーク、SM-3(弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイル)、SM-6(艦対空ミサイル)、Long-Range Standoff weapon(LRSO:AGM-86空中発射型核巡航ミサイルの後継)、陸軍戦術ミサイルシステム(ATCMS)を射程500~5500km相当の地上配備型ミサイルに改修するためのコスト、スケジュール、フィージビリティを検証し、議会に報告すべき」「INF水準の核・非核両用の移動式地上配備ミサイル・プログラムを立ち上げるべき」「追加的なミサイル防衛アセットを積極的に追求すべき。具体的には、米軍・同盟国をロシアのINFから防御するため、イージス・アショアを欧州とアジアに追加配備する際の数・地点を検証し、議会に報告すべき」「INF水準のミサイルシステムの同盟国への移転を推進すべき」といったもので、一部はFY2018の国防授権法やNPRプロセスに取り入れられている。

 一方、条維維持を主張してきたスティーブン・パイファー元駐ウクライナ大使らは、「(条約から脱退すれば)相互検証措置が及ばなくなり、ロシアのミサイル配備を正当化・野放しにしてしまう」「他の装備近代化が必要とされている中、独自INFを新規開発するだけの予算上の余裕はない」「米国のINFは欧州かアジアに配備した場合のみロシアを狙えるが、配備先を見つけるのは政治的に困難であり、軍事的リスクが大きい」「条約に抵触しない空中発射・海洋発射ミサイルでも、同じ目標は達成できる」と主張している。

 なお両者の間では、地域における巡航ミサイル防衛能力を強化すべきという方向性は一致している。当然そのオプションには、現在弾道ミサイル防衛専用に設計されている、ルーマニアとポーランドのイージス・アショアに巡航ミサイル防衛能力を追加することも含まれており、今後発表される「ミサイル防衛見直し(MDR)」の中で言及される可能性があるだろう。

 繰り返しになるが、INF条約それ自体は米露二国間にのみ適用される条約だ。しかし日本にとってより重要なのは、米国の一部の当局者や専門家の間には、アジア太平洋地域において中国の中距離ミサイルに対抗すべく、条約を破棄した方が都合がよいという声があることだ。こうした主張は、地域の安全保障にとって果たして妥当なのであろうか。次回は、INF条約破棄が日本を含むアジア太平洋地域にどのような波及的影響を及ぼすかを細かく検討する。

後編へ続く
 

  
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