安保激変

2018年10月22日

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村野 将 (むらの・まさし)

ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て現職。日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program,米国務省International Visitor LeadershipProgram(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

ロシアによるINF条約違反

 2014年7月29日、米国務省は軍備管理・不拡散・軍縮諸条約の履行状況をまとめた年次報告を発表。その中で、「ロシアは、射程500~5500kmの能力を有するGLCMの保有、製造、飛翔実験、およびそれらのランチャーの保有・製造を行わないとするINF条約の義務に違反している」との評価を下した。ロシアがINF条約に違反するミサイルを開発・保有しているとの疑惑は、2007年頃から取り沙汰されていたものの、米政府が公にその違反を追及したのはこれが初めてであった。

 そして2017年2月14日、ニューヨーク・タイムズ紙が米情報当局者の話として、ロシアが条約違反となるGLCMの配備を始めていると報道。それによると、ロシアは「SSC-8(9M729)」と称されるGLCMを2個大隊保有しており、1つを南部ヴォルゴグラード近郊にあるカプスティン・ヤール試験場に配備し、もう1つは2016年12月以降、国内の実戦配備基地に移動したと見られている。なお、米政府は条約違反とされるミサイルの諸元についての詳細を公表していない。しかし専門家らの分析によれば、SSC-8は「R-500(9M728:GLCM)」の射程延伸型で、「SS-N-30(3M14)/カリブル-NK」と呼ばれる海上発射型巡航ミサイル(SLCM)の地上配備バージョンであるとされている。カリブル-NKは、2015年10月にカスピ海からのシリア攻撃に使用された巡航ミサイルで2500kmの射程を有すると見られているため、この見立てが正しければ、オリジナルと同程度の射程を有すると考えるのが妥当であり、INF条約の制限に抵触している可能性が高い。

 更に2017年3月8日には、下院軍事委員会公聴会に出席したセルヴァ統合参謀本部副議長が、「我々は、ロシアがGLCMを既に配備していると見ており、 INF条約の精神と意図に違反する」「当該システムは、欧州にある我々の施設のほとんどにリスクをもたらすものであり、(中略)それらに脅威を与える目的でロシアが意図的に配備したと考えている」と証言し、米軍高官として初めてそれが配備されていることを認めたのである。

米国による軍事的対抗策の模索

 もっとも米国も手をこまねいていたわけではなく、政府内外でロシアの条約違反への対抗策が検討され続けてきた。2014年12月10日には、下院軍事委員会公聴会で証言したブライアン・マキオン政策担当筆頭国防副次官(のちに政策担当国防次官代行)は、「統合参謀本部は、ロシアの新型INFが欧州やアジアの同盟国に与える脅威に対する軍事的評価を行っており、この評価は我々の広範な軍事的対抗オプションの見直しに繋がる」と述べ、そのオプションには、巡航ミサイル防衛の配備、米国の新型中距離ミサイルの開発・配備等を含むことを示唆した。また、政府による検討措置については、FY2014以降の国防授権法において「INF条約違反に関する国防省による対応計画の報告」と題する項目が正式に盛り込まれている。

 そして国務省は、INF条約調印から30周年にあたる2017年12月8日に発表した声明において、「INF条約は国際安全保障と安定の柱である」「INF条約は、米露間の戦略的競争の管理に貢献してきており、(中略)米国と同盟国とパートナーの安全にとって極めて重要である」と断った上で、ロシアが条約を遵守せず攻撃的システムを配備し続けていることに対して3つの措置、すなわち(1)同問題の解決に際し、米国は外交的解決を追求し続ける、(2)国防省は、軍事概念と、通常(非核)の、地上発射型、中距離ミサイルシステムのオプションを見直す、(3)条約に違反する巡航ミサイルを開発・製造に関与する企業への経済的措置をとるとした。

 ロシアによる条約違反は、2018年2月3日に公表されたトランプ政権のNPRでの決定にも大きな影響を与えた。NPR2018では、昨年末の国務省声明に則り、条約遵守を前提としたものの、条約に抵触しない範囲での対抗手段として、(1)既存の潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の一部を低出力核弾頭に換装し、(2)中長期的には海洋発射型核巡航ミサイル(SLCM)の再開発・再配備を検討するとし、ロシアが条約遵守に回帰するのであれば、SLCM計画については見直す可能性を留保したのである(→詳しくはhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/12096)。

 なお、ロシア政府は米政府の批判に対し、「根拠がない」とするだけでなく、自らを棚に上げて「イージス・アショアに使用される多目的ランチャーは、トマホークの発射に転用しうる」といった言いがかりをつけ、米側こそがINF条約違反を侵していると批判している。(*東欧に配備されているイージス・アショアは、艦船搭載用の多目的システムと異なり、弾道ミサイル防衛専用に改修されている)

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