2024年11月22日(金)

メイドインニッポン漫遊録 「ひととき」より

2018年11月27日

奇跡の出会いから生まれたブランド

カーリー&コーの工場兼オフィス(真ん中の建物)の前の小川に架かる橋を渡る筆者

 小魚が泳ぐ清流に架かる橋のたもとに建つのどかな田舎の一軒家、ここがカーリー&コーの工場兼オフィスである。年季の入った表札は「川北縫製」と書いてある。

 香川といえばうどん県だが、国内生産の9割をしめる手袋の産地としても知られている。川北縫製は昭和38年(1963)、手袋工場として創業。昭和43年にTシャツや肌着といったカットソー専門の縫製工場に転換して輸出用のカットソーを生産。やがて国内向けのOEM※生産にシフトして、最盛期には月に10万枚以上も生産していた。
*Original Equipment Manufacturerの略語で、製造メーカーが取引先のブランドの製品を受注・製造すること

 しかしこの業界もご多分にもれず、90年代半ばからバブル経済の崩壊や急激な円高、安い中国製品に押されて、会社の状況は一変する。ついに平成13年(2001)、川北縫製は大幅な工場の縮小を余儀なくされて、社員をリストラするまでになってしまった。

 「品質で勝負しようと頑張りましたが、従業員を3人だけ残してまさに倒産寸前でした」

社長の川北さん(左)とデザイナーの伊藤さん。一回りも年が違う2人だがモノづくりに対する思いは同じだ

 社長の川北繁伸さんは、そう当時を振り返る。平成15年、父親から工場を引き継ぎ、モノづくりの誇りをもう一度取り戻したいと懸命に経営を立て直していた。

先代の元〈はじめ〉さん。経営から離れてもまだまだ腕は現役。毎日工場に顔を出してはミシンを踏む。かつては年配の職人ばかりだったが、カーリー&コーができたことで縫製技術を学びたいと入社を希望する若者が増えたという

 そんな時に出会ったのが、デザイナーの伊藤裕之さんだ。元々は高松市のセレクトショップで商品の販売と企画をしていた。川北縫製の技術に惚れこみオリジナルカットソーをお願いしたことから、2人の縁は始まった。

 「川北縫製のカットソーは着てみるとよくわかりますが、縫製に立体感があるんです。平面的ではなく柔らかな奥行きがあるというか。とにかく縫製の仕事が精密で丁寧なんです」

  川北社長の隣でそう熱く語る伊藤さん。こうして、モノづくりの誇りをもう一度取り戻したい川北さんと、自分の感性を活かして本当に納得のいくモノをつくりたい伊藤さんは奇跡的に出会い、川北縫製はカーリー&コーとして新たにスタートしたのである。


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