2024年11月24日(日)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2018年11月2日

現地メディアを駆使、世論工作も欠かさない

 こうした経済支援に加え、中国は、現地の世論工作も欠かさない。1999年以降、中国当局は積極的な海外投資戦略を展開し、アフリカ各国のメディアに対して、数百万ドル規模の投資を行って来た。

 2015年、アフリカとのサミットの場で、中国は今後3年間のうちにアフリカ人記者を3000人育成することを表明しており、2016年には習近平国家主席がアフリカの3大国営メディアを視察している。中国は実際に、費用を全面負担し、アフリカ人記者を招聘してきた。その狙いは、アフリカ国内の中国関連報道に間接的に関与し、自国にとって有利な報道をさせることで、アフリカの対中世論や政策にプラスの影響を及ぼすことだと考えられる。これが、中国の対アフリカPDの中核だ。

 こうした中国のアフリカメディアの操作は、一定の効果を持っているように見える。アフリカで、反中記事が削除されているのだ。アフリカでは、報道機関の自己検閲が進んでおり、それが中国に都合の良い検閲方法となっている。2018年9月、米ジャーナリストが、南アフリカ第2のメディアである「インディペンデンス・メディア」が発行する新聞電子版のコラムで、中国のウイグル人弾圧政策に関する評論記事を発表した。しかし、同記事は数時間後に取り下げられ、翌日には同ジャーナリストのコラムページすら削除されたという。

 このインディペンデンス・メディアは、中国と深い関係を有している。中国の国有企業が同社の株式の20%を保有しており、CCTV傘下の中国国際電視総公司(CITVC)と中国アフリカ発展基金(CADFUND)がその株主なのだ。

 また、文化面でも中国はプレゼンスを高めている。現在、アフリカの多くの国で第一外国語として中国語を選択する若者が増えているという。中国のPDはアフリカの若者の興味や価値観に大きく影響しているようだ。2005年、ケニア大学にアフリカ初の孔子学院が開設されたことを皮切りに、アフリカ大陸に次々と孔子学院が誕生した。今日まで孔子学院は増え続け、アフリカで54カ所(2018年10月時点)に開設され、140万人以上が授業を受けてきた。米国などでは中国政府のプロパガンダと批判されることが多くなった孔子学院であるが、中国は強気の姿勢を崩しておらず、今後もアフリカで数を増やしていく構えである。

 現在、アフリカ全体における現地住民の中国に対する好感度は、日本を大きく上回っている。外務省による2017年のアフリカ地域における世論調査によると、「最も信頼できる国」を中国と回答した割合が33%で、日本や欧米各国など19カ国の中で最多となった。一方、日本と回答した人はわずか7%だった。

徐々に高まる警戒感、人種差別問題も

 しかし、経済力をてこに影響力を増す中国に対する不信感も、アフリカで少しずつ芽生えつつある。例えば、2018年9月、ケニアの警察当局は中国国営メディアの中国人記者を不当滞在取り締まりの一環として拘束した。中国で「中国アフリカ協力フォーラム」首脳会合の最中の出来事だった。こうした重要な期間にケニア当局が中国人記者を拘束した背景には、同国内の中国の影響拡大への不信感があるとの指摘もある。

 また、中国の現地人に対する人種差別問題への関心も高まっている。米紙ニューヨークタイムズによると、同年9月、中国人実業家がケニアの現地従業員に対し「皆、サルだ」と暴言を吐き、その様子がツイッターに投稿され、大問題となった。ケニア政府はこの中国人実業家を逮捕、国外退去手続きを行っているという。

 ケニアの事案のように、中国の対アフリカ外交で表明した内容、および中国の対アフリカPDが、実際の行動と一致していないことが、中国PDの効果を限定的なものとしている。こうしたケースはまだ極一部だが、今後、現地での中国の態度が変わらない限り、アフリカにおける対中警戒感や不信感は徐々に拡大していくことも考えられる。


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