2022年7月3日(日)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2018年11月2日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

日本国際問題研究所研究員

1993年生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官、未来工学研究所研究員などを経て、現職。京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教などを兼務。近著に『なぜ日本の「正しさ」は世界に伝わらないのか 日中韓熾烈なイメージ戦』(ウェッジ)。
 

 太平洋島嶼国とアフリカにおける、中国の経済進出およびそれに伴うPDのやり方、そしてそれに対する現地の反応には、相似が見られる。そして、国際社会は、こうした中国の動向について、環境破壊や債務漬けといった懸念を持って注視している。太平洋島嶼国に関しては、米国や旧宗主国である近隣のオーストラリアやニュージーランドが警戒を強めており、アフリカに関しては、旧宗主国であり同地域を自国の裏庭と考えるフランスが警戒感を高めている。実際、前述の習氏のアフリカ歴訪に含まれたセネガルにとって、中国は第2位の貿易相手国であり、第1位のフランスを追い上げている。最近建設された国内のインフラの大部分は中国企業によるもので、道路をはじめ、競技場、劇場版、国立レスリング場、博物館といった娯楽施設まで建設されたという。

関係各国との協力を

 では、こうした途上国に対する中国の経済支援を軸とした野心的なPDに、日本はいかに対処していくべきだろうか。

 まず、対アフリカでは、フランスとの協力が可能である。現在フランスは、日本との安全保障協力の強化を求めている。マクロン大統領は、2018年3月にインドを、5月にオーストラリアを訪問し、防衛・安全保障面での関係強化を要請した。また7月には、日本とインド太平洋地域の安全保障で協力を強化することで合意している。こうしたフランスの動向の背景には、イギリスのEU離脱やトランプ政権の誕生などによって、インド太平洋地域に頼りとなる相手が存在しなくなったという認識が生じたことが考えられるが、対中認識の変化も大きな理由の一つだろう。

 フランスには、日本、インド、オーストラリアとの安全保障協力を軸に、中国による海洋覇権の拡大をけん制する狙いがあると考えられるが、その背景に、中国寄りだったフランス産業界でも、中国とのビジネス上のリスクについて懸念が持たれ始めたことがあるという。中国に配慮する必要がなくなりつつあるということだ。

 現在のインド太平洋地域の情勢や各国の動向に鑑みれば、これからの日仏関係は、文化のみならず安全保障分野での協力体制を強化し、深化させる余地があろう。

 また、対太平洋島嶼国については、米国はもちろん、新たにオーストラリアやニュージーランドとの協力の可能性があるだろう。特にオーストラリアと日本の間では、安全保証面での戦略的な協力強化が必要とされており、2018年1月のターンブル豪外相との会合では、両国の防衛協力拡大について協議されたばかりである。太平洋島嶼国とオーストラリアは地理的にも関係が深く、島嶼国にとってオーストラリアは、最大の援助ドナー国および貿易相手国でもある。オーストラリア自身も、中国の台頭が自らの影響力を削ぐのではないかという警戒感を示しているため、日豪協力の道も模索できそうだ。そして、日本は島嶼国各国に適した経済援助を実施していることから、PDの方途も、それぞれの国に見合った働きかけに変えていくことも可能となろう。日本の外務省によると、援助アプローチの前提となる「開発ポテンシャル」という観点から、島嶼国地域の国々を3種類に分類して、各国の状況に適した援助を実施している。

相手目線に立ったパートナーシップ構築を

 日本はこれまで、中国のシャープパワーの被害を間接的に受けてきた。例えば、国際社会における中国による歪曲された史実の発信や、それに伴う国際社会からの「懸念」や「反日感情」などの増大であった。これからも、中国のシャープパワーを抜きに日本が自らのPD戦略を考えることはできないだろう。

 国際社会で中国のPDに警戒感が高まっていることは、日本にとって決して悪い流れではない。日本には、中国のシャープパワーやPDに警戒感を持っている世界の国々との協力の余地が広がるからだ。日本は、太平洋島嶼国やアフリカと歴史的繋がりや政治的繋がりが深い。太平洋島嶼国とは、太平洋・島サミットを通じて、双方の関係を深化させてきた。また、アフリカとは、ODAに加え、アフリカ開発会議(TICAD)を通じた繋がりがある。

 太平洋島嶼国やアフリカをはじめ、その関係国であるオーストラリアやニュージーランド、フランスとの良好な関係を持つ日本の役割は重要である。日本は、中国の台頭に警戒感を示す周辺国との協力を強化しつつ、独自の対太平洋島嶼国、対アフリカ政策をも模索していく必要があるだろう。「圧力」や「強引」な手法ではなく、対象国や地域の考えやニーズを敏感に理解し、政策に反映させていくことで、相手国と同じ目線でのパートナーシップを築いていくことが可能になるだろう。
 

  
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