2024年12月7日(土)

サイバー空間の権力論

2018年11月15日

ネット店舗の拡張スペースとしての実店舗

 近年、実店舗に対して新たな視点から注目が集まっている。

 まず上述のように、オーダースーツのような細かな調整が必要なアイテムを、ネット上のサービスだけで完結するのは困難が伴うように思われる。また実店舗よりECサイトが着目されることが多い昨今だが、依然として我々の買い物の大半は実店舗で行われている。そして、すでにECサイトはアマゾンだけでなく様々なサイトがあり、実店舗と同様に競争が激しく、ユーザーを囲い込むためのコストも増加している。

 そこで、ユーザーデータを多数所有するECメインの企業が実店舗を構えることで、顧客の満足度を向上するといったケースも登場してきた。数年前、実店舗で商品をみて購入はネットで行うという「ショールーミングの恐怖」が話題となったが、オンラインショッピングが普及する中で、逆に最初に商品を目にするのはネットだが、購入は実店舗で現物を見て行う、という逆転現象も生じつつある。例えばアマゾンはアメリカにいくつかの実店舗を構え、米ホールフーズのようなスーパーマーケットチェーンを買収しているが、これはより詳細なユーザーデータ収集の他、実店舗での細かな対応を可能にする狙いがあるように思われる。

 アマゾンにせよZOZOにせよ、ユーザーのマーケティングデータを豊富に持つ企業に実店舗が備われば、実際のユーザーのニーズといった、より詳細なマーケティングデータを得ることができる。ネット店舗が商品への最初の接触先となる時代においては、実店舗はネット店舗の拡張スペースであるとも考えられる(この点について詳細は、ティエン・ツォ、ゲイブ・ワイザート著(桑野順一郎、御立英史訳)『サブスクリプション』ダイヤモンド社、2018年、を参照。また本書については筆者も出演した2018年11月4日放送のTBSラジオ『文化系トークラジオLife』において、ライターの速水健朗氏がいち早く紹介している)。商品を販売するだけの実店舗は淘汰されるかもしれないが、ユーザーのニーズ分析を第一に考える企業は、データと実店舗の相乗効果を期待できるということだ。

ZOZOのこれから

 これまでのZOZOはプラットフォームの運営を行ってきた。ここまででわかることは、少なくもと現状におけるZOZOは「プロダクトメーカー」として生産に関わることが少なく、それ故に生産体制や顧客のニーズなどに、懸念材料を抱えているということだ。このような状況にあって、ZOZOSUITを将来的に廃止し、機械学習を徹底することで、本当に体型に合ったPB商品をユーザーは手にすることができるのだろうか。これまでのZOZOのPB部門の変遷を考慮すると、やはり疑問であると言わざるを得ない。

 もちろん明るいニュースもある。前澤社長のTwitterによれば、足の計測システムはほぼ完成しているという。「サイズ左右差や、立っている時や歩行時の負荷軽減なども考慮したオリジナル靴の商品開発に着手開始」とのことである(前澤社長2018年10月31日のTweet)。筆者を含め、靴のサイズが左右で多少なりとも異なり、靴が履きづらいと感じているユーザーは多いと思われる。そのようなユーザーにとって、サイズの合ったスニーカーがつくれるのであれば、それは非常に魅力的な商品である。

 本稿はZOZOに対して少々厳しい指摘を行ってきたが、ZOZOSUITを発表当初から注文し、実際にZOZOSUITで計測したTシャツを購入したことがある筆者にとって、ZOZOの技術力が向上することは、1ユーザーとしては歓迎したいものである(Tシャツのサイズはジャストフィットとはいかなかったが、十分満足できる内容だった)。本稿は実店舗が持つ強みについても考察を行ってきたが、ZOZOがどのような施策を打ち出してくるか、興味を持って見続けていきたい。
 

  
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