高コストのPB事業は赤字に
ZOZOの運営の基本は、ファッションECサイトのプラットフォーム「ZOZOTOWN」である。一方、PBやZOZOSUITは、ZOZOが自らファッションアイテムを手がけるためにはじめたものだ。PB分野はコストがかかる。上述の決算報告では、売上高こそ前期比25.9%増の537億円となったが、営業利益が同27.3%減の100億円、経常利益が同27.7%減の100億円、最終利益は同34%減の62億円と増収減益となっている。ZOZOSUITの配布コストなどが影響し、PB事業の営業損益は70億円の赤字となってしまった。そこでZOZOSUITの無料配布計画も減らし、コスト削減を計画している。また7月には5000円近くあった株価も下がっており、11月上旬の株価はおよそ2700円となっている。
こうしてみると、ZOZOが経営上の難局を迎えていることがわかる。前澤社長は会見で、今後はZOZOSUITを利用しなくとも、ユーザーの最適サイズを予測する新技術に力を入れていくと述べている。詳細が語られることはなかったが、PB商品を購入する際に、ユーザーの身長、体重、年代、性別などのデータを入力することで、最適サイズが予測されるという。そのために、これまでのユーザーのZOZOSUITを利用した計測データや、ユーザー自身が入力したデータ、ユーザーからの製品へのフィードバックデータなどを機械学習を用いて分析することで対応するという。要するに、ZOZOSUITを含む既存のデータを分析すれば、ZOZOSUITがなくとも体型にフィットしたアイテムが購入可能になるというのだ。
確かに大量のデータを機械学習にかけることで、その精度は飛躍的に向上するだろう。実際、2018年9月には、ZOZOSUITなしでもPB商品の購入が可能となった。ZOZOの発表によれば、「当社独自のデータ検証により、日本人(15~70歳)の81%に該当する体型の方については、全体の90%の確率で各部位の推定計測誤差を3cm未満に抑えることが可能になった」という。しかし、詳細なデータなしに最適なアイテムが選択できるかどうか、筆者には疑問が残る。というのも、ZOZOSUITを用いた現段階においても、ZOZOには多くの批判が寄せられているからだ。
PBへの批判と、競合相手の出現
ZOZOのPBの中でも、目玉として挙げられたのが2018年7月に発表された「オーダースーツ」だ(「ZOZOSUIT」と「スーツ」で混同しやすいが、スーツとはあのビジネスシーンで活躍するスーツのことだ)。ZOZOSUITで計測されたデータを基に、ユーザーの体型に合ったスーツが税込み39900円(期間限定でドレスシャツとセットで税込み24800円)で利用できるとして話題となった。
ただし、スーツに関しても生産体制が確立できず発送が遅れたほか、実際に届いてみると体型に合っていないなどといった苦情がネットを中心に広がった(インターネットで検索してみれば、現在でも多くの批判を目にすることができる)。またオーダースーツとはいえ、その手法は原型となるパターンがあり、そこからユーザーの体型に合わせて修正する「パターンオーダー」であり、型紙を1からつくる「フルオーダー」ではない(その値段でフルオーダーはまず無理である)。
付言するならば、39900円であれば、それほど変わらない値段で実際に店舗で計測し、体型に合ったパターンオーダースーツを利用できるサービスが他にも多くあることも知られている。例えばオンワードパーソナルスタイルが運営する「KASHIYAMA the Smart Tailor」は、最低価格税抜き30000円から利用可能だ。計測にあっては店舗への来店だけでなく、出張採寸サービスもあるほか、2着目からはオンラインのオーダーも可能である。
もちろん、自宅で計測するだけでスーツがオーダーできるというところが、ZOZOの強みではある。しかし、この分野にもすでに競争相手が現れている。紳士服のコナカは人工知能開発ベンチャーの「アリスマー」と提携し、スマホの写真を利用した全身採寸技術を開発。2018年11月を目処にオーダーメイドのワイシャツを販売するという。2019年にはオーダースーツの販売も予定していることから、ZOZOと完全に競合することになる。さらにコナカは実店舗を持っているという強みもある。
コナカの場合、全身採寸技術を利用したオーダーのほか、店舗での採寸も可能だ。全身採寸で問題があれば実店舗での対応も可能となることが推察される。オーダースーツに問題があったり、そうでなくとも着用する中で修繕の必要があれば実店舗に来店し、そこからコナカの商品に接する可能性もある。そのように考えれば、今回の技術を実店舗への動線と捉えることも可能かもしれない。