From NY

2018年12月4日

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田村明子 (たむら・あきこ)

ジャーナリスト

盛岡市生まれ。1977年米国に単身留学し、1980年から現在までニューヨーク在住。著書に『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)、『知的な英語、好かれる英語』(生活人新書)、『女を上げる英会話』(青春出版社)、『聞き上手の英会話』(KADOKAWA/中経出版)など。翻訳書も多数。フィギュアスケートライターとしても知られており、『挑戦者たち-男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で2018年ミズノスポーツライター賞受賞。

お客を追い返す店員

 我々がうどんを食べ始めた頃にはもう正午をまわり、レジの前には長蛇の列ができていた。列ができたのは、注文レジに誰もいなかったからである。

 さきほどの中国人の女性ともう1人の女性店員は、カウンターの中でのんびりねぎを切ったりお盆を並べたりしている。

 辛抱強く待っていたお客のところにようやく戻ってきた彼女は、気まずそうな笑顔でこう言った。

 「Sorry, It’s gonna be 30 minutes wait.(すみません、30分ほどお待ちいただきますが)」

 それを聞いた筆者は、うどんでむせるところであった。さ、30分って、あなたたち今オープンしたところでしょう。開店してから出したうどんは、我々が食べているものも含めてせいぜい5食分である。テーブル席は、まだガラガラだ。

 それでパンク状態って、一体どんな仕出しをしていたのか。日本の蕎麦屋だったら、従業員全員が一糸乱れず必死にオーダーをさばいていくはずだ。

 お客たちは、2人、5人、10人と肩をすくめて他の食べ物を探しに去っていった。彼らはおそらく、二度とここには帰ってきまい。SNSに不満を書く人もいるだろう。

 呆れて食べることも忘れてカウンターの中に目をやると、奥で若いアジア人男性が、いかにもなれない手つきでのんびりと生のうどんを1本、2本とつまみあげては計りに載せ、首をかしげているのが見えた。

 「お兄さん、それは今やることじゃないでしょう。今の最優先事項は、あんたたちが追い返しているお客たちでしょう」と説教したくなる自分を抑えた。

 筆者がオーナーだったら、怒りのあまり卒倒している。

先行きが不安だが……

日本のサービスなきジャパンビレッジ

 ニューヨーカーの間で、日本食は大人気である。一度日本に行ったことのあるアメリカ人は、ことごとく日本と日本食のファンになる、と言っても過言ではない。筆者が日本人だから贔屓目に見る分を差し引いたとしても、アジアの文化の中でも、日本は別格扱いされていると思う。

 それは日本食がヘルシーで美味しいからだけではなく、親切、丁寧、要領よしという日本式のサービスがついてくるからだ。ニューヨーク中どこにでもある日本食レストランも、それなりのレベルを保っていないと生存競争には勝てない。

 Japan Villageオープニングのニュースは、ニューヨークタイムズにも大きく取り上げられた。楽しみにしてブルックリンのはずれまで連れ立ってやってきた日本食ファンたちがこんな目に遭うのかと思ったら、日本人として申し訳ない気持ちになった。

 ジャパンビレッジと銘打つからには、日本式のサービスが揃ってこそのはずである。願わくは、この不手際がオープンしたての一時的なことだと信じたい。

  
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