2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2018年12月26日

 この問題から教訓とすべきことは、こうした議論環境の不安定さであり、その改善なくしてSociety 5.0の推進も危ういのではないか、と思われる。

 「自律・協調・分散」がインターネットの強靱さをもたらす秘訣であるが、それが同時に匿名のまま違法有害情報を発信できたり、大規模なサイバー攻撃を可能にしたりもしている。私たちはサイバー空間の便益を高めリスクを抑えるために、進歩する情報通信ネットワークのあり方を適切に理解して、バランスのとれた解決策を議論し続けなければならない。

「媒介者」に背負わせてきた
サイバー空間の責任

 これまでは、サイバー空間で生じた問題の責任を、「媒介者」(intermediary)である電気通信事業者や検索エンジン、プラットフォーム事業者等に負わせるという提案が、繰り返しなされてきた。検索エンジンで氏名を検索しても、前科等の個人情報が掲載されているURLが表示されないように求める、いわゆる「忘れられる権利」も、その一例にすぎない。

 しかし、自由な情報流通のボトルネックである媒介者に、過剰な責任を負わせることは、利用者のサイバー空間における自由をも壊死させる劇薬となりうる。むしろ情報化社会における政府の役割は、媒介者による情報の公正・中立な媒介を確保する規制を通じて、情報流通とそれによるイノベーションを促進することであろう。

 先に触れた「通信の秘密」は、ISP等が業務上必要な限度を超えて利用者のアクセスに手を触れないよう求めるものである。日本法がこのように媒介者としての電気通信事業者の役割を規定し、サイバー空間の自由を実現してきたことは、EUの「一般データ保護規則(GDPR)」の定める、データ越境移転のための十分性認定の手続きでも、高く評価されたところである。

 今後求められる議論の方向性は、サイバー空間で現に起きつつある問題を的確に捉えた上で、媒介者任せではなく、政府、企業や国民を含む利用者といった各主体が「何をすべきか」「どこまでの責任を負うべきか」を明確化していくことであろう。そのような全体的構図のないまま場当たり的な規制を試みても、実効性がないどころか弊害を生みかねない。

 例えば、サイバーセキュリティについて考えてみよう。重要インフラ事業者には、高度な安全基準の順守、情報共有などのサイバーセキュリティ対策が求められているが(サイバーセキュリティ戦略本部、2018年7月決定)、一般の企業や個人利用者の対策や意識は必ずしも十分ではない。仮に弱い初期設定のまま、ルーターのパスワードを放置していると、管理画面に不正にアクセスされて、アクセス認証に用いるID等の情報を盗まれる危険がある。


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