マティスの言っている内容は全面的に正しい。しかし、これに対しトランプは、「我々は多くの裕福な国々の軍事的負担を負っているのに、これらの国々は貿易で米国につけ込んできた」、「マティスはこうした点を問題視しなかったが私は違う」、「同盟国は重要だが、米国につけ込むとなると話は違う」などといったツイートを連発し、さらにマティスの退任日を12月末日に前倒しした。トランプには、マティスの書簡は意見がましいとして我慢ならなかったものと思われる。
マティスの辞任劇は、トランプ外交が、米国第一主義、同盟軽視をますます強める契機となると見られ、世界中に不安を与えている。最も懸念されることは、米国の外交・安全保障政策の予測可能性がますます低下することである。これは、誤解、誤算の危険性を高め、無用な衝突のリスクを増大させる。このことを懸念しているのは、実は同盟国だけではない。例えば、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の12月21日付け記事‘Mattis Exit Stokes Concerns About Volatility’は、「安定性と予測可能性が、予測不可能、驚き、カオスに取って代わられるならば、当然、外交関係における不快感と懸念の原因となる」とするロシア大統領府報道官の言葉を紹介している。
他方、これまでのところトランプは、米議会の意向を比較的よく汲んでいるように見える。マティス辞任の直接的な引き金となった米軍のシリアからの撤退にしても、議会共和党の重鎮を含む超党派の強い反発を受け、即時の撤退ではない旨を釈明したり、イラクを訪問して米国の中東に対する関与の継続を示唆するなどしている。もっと大きな問題では、トランプは対ロ関係の改善を望んでいると見られているにもかかわらず、議会の一貫した対ロ強硬姿勢に反することはせず、むしろ対ロ制裁を強めるなどしている。また、経済面、軍事面双方における対中強硬策は、議会とトランプ政権の考えがよく一致しており、今後とも変化がないと見られる。米国の外交・安全保障政策を判断するには、米国の厳格な権力分立の制度に鑑み、議会というファクターも軽視できない。政権のスタッフだけではなく議会の動向を含めて、トランプ外交のリスクを分析していく必要がある。さらに、米国の同盟国は、米議会への働きかけを強めていく必要もあると思われる。
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