2024年12月10日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年1月22日

 そもそも、トランプの撤退決定は政策的に問題があった。ミッション達成の寸前に成果を手放すようなものであり、中東での役割を自ら放棄するようなものである。この決定を喜んだのは、トルコ、IS、アサド、ロシア、イラン(イラクからレバノンへの回廊確立が容易になる。イラクを使って米軍撤退後の空白を埋めることを考えているともいわれる)、ヒズボラである。他方、クルドを裏切ることになった。クルドはアサド政権への接近を一層強め、自治区域確立をアサドの認めさせようとするだろう。イスラエルは心配している。イスラエルはロシアとの関係を強めヘッジを強化するだろう。アラブの国々も対米不信を募らせている。12月27日にはUAEがダマスカスの大使館を再開し、アサド政権との関係を正常化させようとしている。バーレーンにも追随の動きがある。3月にチュニジアで開催される予定のアラブ首脳会議にアサドを招請することも検討されているという。

 今回のことで米外交の中東での信頼性は大きく傷ついた。トランプの外交は益々行き当たりばったりの度合いを深めている。トップ同士の取引に囚われるばかりで、先の展開、他のアクターのことは全く考えていないように見える。中東ではトランプよりもロシアの方が頼り甲斐があるとの見方も出ているという。中東諸国のヘッジ外交は強まるだろう。ネタニヤフがよい例である。

 トランプ政権が中東で外交エネルギーを費消することは、アジア太平洋地域にとり良いことではない。米国にとり地政学的に最も重要な地域は、中国や北朝鮮があるアジア太平洋である。

  
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