「落ちてきたコインで人が死ぬ」という迷信も、ちょっと興味深い。「超高層ビルのてっぺんからペニー硬貨(米国の通貨で一番軽いコイン)を落とすと、頭に当たった人が死ぬかもしれない、と数世代にわたって子どもたちの間で言い伝えられてきた」というのだ。
これは、「終端速度」の理論を使って数字で説明している。結論をいえば、ペニーが落ちてくる状況を心配する必要はない。ただし、ボールペンがダーツのようにまっすぐ落ちてきたら、「空気抵抗が働いても時速322キロまで速度が上がり」、危険な凶器になるという(決してまねをしないでください)。
「世界で最悪の毒物の一つ、一酸化二水素」の正体
「巧妙に操作され科学的な響きを持つ情報に直面したとき、私たちは暗示にかかりやすいことに気づかせてくれた」事例として挙げられた一つが、「一酸化二水素(DHMO)の危険性」である。
<1980年代初めから、熱心な市民グループが、世界で最悪の毒物の一つである一酸化二水素の危険性を説いて回った。(中略)この化学物質は、吸入すると命に関わることがあるという。しかし、これはでたらめで、一酸化二水素とはH2O(水)のことなのだ。>
この噂には、陰謀論者が好きそうな要素がてんこもりだ。要するに、DHMOなしには、動物実験や原子力発電は不可能なので、既得権益を持つ人たちがDHMOの規制を妨げてきた。その結果、人びとは知らないうちに一酸化二水素を摂取している、といった話である。
始まりは、米国ミシガン州の地方紙が報じたエイプリルフールの冗談だった。水道に化学物質「一酸化二水素」が入っており、その物質は「皮膚に激しい水ぶくれを引き起こす蒸気」を生成するという。
カリフォルニア大学の学生たちは冗談に気づいたが、まんまと便乗して「一酸化二水素禁止連合」を創設した。この「運動」に刺激を受けたアイダホ州の中学生は、DHMO禁止を求める請願書を回覧した。
その後、この狂言は、チェーンメールや科学教室で話題になり、「無知な議員を引っかけたり、何も知らない市民団体をぎょっとさせたりした」という。
これは実害がないので笑ってすませそうだが、「ワクチンと自閉症の因果関係」となると、どうだろう。