私たちは「見たいようにしか見ていない」
<2015年、カリフォルニアの麻疹大流行によって、当時すでに深刻になりつつあった問題に注目が集まった。小児期に多い病気のワクチンを、子どもに接種させない親が多くなっていたのだ。ワクチン接種が、自閉症スペクトラム障害を起こすリスクを高めると信じている親もいた。>
以前にも本欄で書いたが(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12843?page=3)、ワクチン接種と自閉症の間に関連があるとする確かな研究結果はない。各国の保健機関や専門家が言葉を尽くしてそう説明しても、一部の親たちは両者の関連性を信じたり、他の理由を見つけたりしてワクチン接種を拒否する。
そうした態度が、「米国で一度は根絶したと思われた麻疹を再び流行させる一因となっているのかもしれない」と、本書は指摘する。
両者の間に関連性があるという噂の発端は、1998年、英国人の医師ウェイクフィールドの研究論文だった。大きな論争の結果、12人というサンプル数の少なさと研究方法が批判された。のちに、論文を載せた科学誌が不正だったとして論文を撤回した。
にもかかわらず、ワクチン接種後に自閉症の最初の兆候がわが子に現れると、ワクチンのせいだと訴える親は後を絶たない。自閉症の兆候は、ワクチンを接種する1歳~1歳半のころに現れることが多いので、原因と結果として結びつけてしまいがちなのだ。
この事例は、私たちの陥りやすい心理傾向をよく表している。「なぜ、あっさり信じてしまうのか?」。そう自問自答しながら本書を読めば、私たちは「見たいようにしか見ていない」ということに改めて気づかされるだろう。
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