2023年2月5日(日)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2019年1月31日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

香港映画が復活した理由

 初の長編作品となる本作によって世界各国で映画賞を受賞した黄進監督は筆者との書面インタビューで、「高齢化は日本でも共通するテーマかもしれません。しかし、都市と地方の区別がない香港はそれが濃縮されて現れており、高齢者と一般人の距離がゼロで、逃げ場もありません。そして高齢者には十分な保護が加えられていないという問題があります」と指摘する。

(C)Mad World Limited.

 それにしても香港映画は若手監督の台頭が著しい。いま中華圏で最も深みのある映画が出てくるのは香港ではないか。一時期は圧倒的に資金の豊富な中国大陸との合作映画に映画界全体が流れてしまい、映画人がこぞって北京に流出し、香港映画らしさが失われてしまった。しかし、2014年の雨傘運動のころから、香港映画はにわかに活気を取り戻していく。その間に制作された『十年』などの映画は世界にインパクトを与えて、香港映画はまだ死んでいないことを印象付けた。本作もまた、その「復活する香港映画」の一翼に置かれてしかれるべき作品である。

 さらに、香港映画の活気の裏には、若い映画人を支えるシステムがあることも紹介すべきだろう。香港政府の一部門である「電影発展基金」は、2009年から香港で若手育成計画を行なっており、若手の映画人に対して、補助金を出している。600人以上がトレーニングを受け、50人以上の映画監督とプロデューサーが50作以上の作品を生み出した。その中には、『一念無明』も含まれており、黄監督も「もしこの補助金がなければ、私もあるいは数十年後にやっと長編映画の監督になれたのではないでしょうか。現在の商業映画とは一線を画した深みのある作品を、創作者の自由に撮らせてもらえるチャンスは貴重なものです」と語っている。

(C)Mad World Limited.

 ほかにも同基金の支援を受けた作品には、自閉症を主題とした『黄金花』(2017年)や、時代に翻弄される家族を描いた『歳月神偷』(2010年)など、興行・海外での評価両面で好成績を収めている。


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