野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2019年1月31日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

香港映画に突きつけられた難題

 黄進監督は初作品からこうした題材を選んだことについてこう語る。

黄進監督 (C)Mad World Limited.

「初めての作品について、新人監督は手軽な題材を選んではいけないと思っていました。自分自身に最も響くテーマでなければ、資金も経験もなく時間も限られたなかで最後までやり抜くことはできないからです」

 さらなる重さもこの映画にはある。それは香港の空気の重さである。香港には、いま無力感が漂っている。香港はどこに向かうべきか。2014年の雨傘運動のあと、いったんは世界に向けた香港の活力を示したはずだった。しかし、香港の若者や市民の声に対して、香港政府や中国は「一国二制度を揺るがす動きは許容しない」との方針のもと、選挙に当選した雨傘出身者のリーダーたちの議員資格を剥奪し、影響力のある運動リーダーたちの選挙参加資格に対する制限、雨傘運動やその後の抗議デモに関わった人々を次々と刑務所に送り込んでいる。

 こうした動きは、まさに香港映画『十年』(参考記事:映画『十年』が予見する香港の暗い未来が描き出す暗黒の未来に向けて、香港が歩みつつあることを予感させ、その無力感が、この映画にも伝染している。

 本作で「香港電影金像奨」「台湾金馬奨」など多くの海外映画賞を獲得した黄監督は、香港映画の将来については「とても楽観はできない」と語る。

「香港映画のマーケットは小さすぎます。しかし内地(中国大陸)に向かうには、内容への審査があり、水に合いません。長期的に香港映画の将来を考えるなら、若い世代の映画人は香港に根っこを置きながら、世界の市場を見ていくべきです」

 香港をテーマに何を撮るのか。テーマは限りないようにも見えるが、同時に、誰にどう見せるのかという問題は常に突きつけられる。中国との政治問題の敏感度も日々高まっており、雨傘運動後の香港映画たちが突きつけられた難題に対して、『誰がための日々』はひとつの答えを見せてくれる作品となっている。

◎香港映画『誰がための日々』
2月2日(土)より新宿K’s cinema他全国順次ロードショー
(C)Mad World Limited.
配給:スノーフレイク
公式サイト:http://tagatameno-hibi.com/

  
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