中島恵の「中国最新トレンド事情」

2019年2月5日

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中島恵 (なかじま・けい)

ジャーナリスト

1967年山梨県生まれ。新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日本経済新聞出版社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)『日本の「中国人」社会』(日本経済新聞出版社)などがある。

高まる中国人のコーヒーへの関心

筆者がスタバで飲んだカフェラテ(46元=780円)

 同店がこれほどの人気店であることに驚いたが、それ以上に私が驚かされたのは、中国にコーヒー文化が浸透しつつあるということだった。同店だけを見て「中国のコーヒー文化は……」というのは言い過ぎかもしれない。だが、ここ数年、私は上海だけでなく、北京や杭州など各地でいくつものカフェを訪れ、中国人のコーヒーへの関心の高さを実感していたので、尚更そう感じた。

 2年前に杭州で訪れたカフェは2人の脱サラした若い女性が経営していた。そのうちの1人は元テレビ局のアナウンサー。「自分のカフェを持ってみたい」という夢を実現するため、貯金をはたき、「コーヒー先進国」である日本にコーヒー修業に出掛けた。コーヒーといえばもちろん欧米の歴史が長いが、日本はアジアで最もコーヒーが根づいている国だ。その女性は「日本の書店にはたくさんのカフェ経営やコーヒーに関する本が売っている。それを友人に翻訳してもらって独学で勉強した」と話していた。確かに中国の書店には、カフェ経営やコーヒーそのものに関する本が増えている。同店にはたくさんの観葉植物が置かれ、まるで植物園のようになっていたが、その中で挽き立てのコーヒーを淹れるのが評判となり、カフェは地元客で繁盛していた。

 上海でしばしば訪れるのは淮海中路という駅の近くにあるいくつかのカフェだ。この付近には老房子(ラオファンズ=古い洋館)と呼ばれる建物を活用したカフェが多く、静かにコーヒーを楽しめる雰囲気。こうした店ではコーヒーとケーキのセットで100元以上もするが、店内は常に顧客で混んでいる。高級店だけに限らない。日本にもありそうな、小さいけれど個性が光る小さなカフェはあちこちに増えており、ラテアートに凝ったり、手作りケーキを出したりしている。そうした店には、スタバのように数人連れで訪れるのではなく、たいてい1人か2人で訪れ、静かに読書をしたり、語り合っていたりしている人が多く、日本のカフェとまったく変わらない。むろん、コーヒーの種類も多く、日本に近づいている印象だ。

 そうした個人経営の小さなカフェが急増している一方で、今、注文を集めているのが、北京発のコーヒーチェーン「瑞幸珈琲」(luckin coffee ラッキンコーヒー)の存在だ。ラッキンコーヒーは2017年10月に創業。店内で飲むスタイルではなく、テイクアウトとデリバリーのみのコーヒー専門店で、顧客はアプリで注文、モバイル決済で購入するというのが大きな特徴だ。

 店の内装やカップは青地に白いシカがデザインされたマークで統一されており、コーヒーを5杯購入すれば5杯無料になるなど、モバイル決済ならではの特典がいろいろついている。価格もスタバより2割ほど安く、北京や上海のビジネス街に多く出店しているため、ホワイトカラーのビジネスマンが通勤途中に立ち寄り、モバイル決済で購入してオフィスに持っていく、といったライフスタイルに合っている。スタバは2018年現在、中国全土の140都市に約3400店舗あるが、ラッキンコーヒーは創業からわずか1年で21都市、約1400店舗にまで急拡大した(ちなみに日本国内のスタバは約1400店舗)。まるで、一時期のシェア自転車並みの猛スピードで店舗拡大を繰り広げている。

 かつて「高い、まずい、薄い」といわれた中国のコーヒー。だが、その様相は「従来の中国のイメージ」が実際とは大きくかけ離れているのと同じように、変貌を遂げているのだ。

  
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