ところがこの8月、福島県の特産品の桃は例年なら1箱(5kg)3000円の値がつく生産者価格が800円にまで落ち込み、生産費すら賄えない状況でした。桃の検査はかなりの数、行われており、高いものでも暫定規制値の3分の1以下、検出限界未満も多かったにもかかわらず。イメージダウンは決定的だとして、「もう、廃業しようか」と言っている桃農家も大勢出て来ているといいます。
豊かな農業県、水産県が今や、生産を続けられるかどうかの瀬戸際にあります。「なんとなく危なそうだから」と福島産を敬遠する消費者の感覚が、被災地を見捨てることに直結します。それは、おいしい果物や牛肉、野菜などを供給して来た大産地を将来、消費者が失うことにもつながります。
被災したほかの県でも、放射能汚染の風評被害により食品産業が大なり小なり売上不振に陥っています。
「ふくしま新発売」で検査結果をオープンに
前後篇を通じて見てきたように、食品の汚染は複雑です。場所によって存在する放射性物質の量が異なり、水や土壌の性質も違い、作物の吸収の程度も変わってきます。畜産や漁業の場合も、飼料や魚種等によって、汚染の程度がまったく違います。被災地は、数多くのファクターが絡んだ中で、極力汚染の程度の低い食品を作り再生を目指さなければならないのです。
そうした生産の難しさや、放射性物質低減の努力を知らない消費者の「なんとなくいや」という感覚が今、多くの人たちを苦しめています。
こうした事態を打開しようと、福島県は、検査結果を隠さず見せて理解を得るため「ふくしま新発売」というウェブサイトを8月末、オープンしました。そこでは、品目や自治体別に検査結果を調べることができます。農水省のウェブサイトでも、県別に地図や表で結果が見られます。国や県の検査結果の公表の仕方にはさまざまな問題がありましたが、大きく改善されてきているのは事実です。
汚染ゼロは望めません。放射性セシウム137の半減期は30年で、これから放射性物質と長い付き合いをしなければなりません。一方で、私たちは世界中で核実験が行われていた1950年代〜60年代に、放射性セシウムが10~20Bq/kg程度の玄米をそのまま、あるいは精米して食べ、100〜200Bq/kg程度のお茶を知らずに飲んで来たのです。また、食品中には自然の放射性カリウムなどが含まれています。私たちの人体には約4000Bq程度の放射性カリウムがあり、毎日約50Bqを食品から摂取し、同じ量を排出しています。かぼちゃやさつまいもには100Bq/kg程度の放射性カリウムが含まれています。自然だから体への影響がない、というわけではなく、放射性カリウムは同じBq値であれば放射性セシウムの半分程度の被ばくをもたらす、とされています。
消費者も、このような科学的事実を知り、ゼロリスクを追い求めず、「なんとなく」の気分を排さなければ。少なくとも、科学的根拠を欠いたまま被災地産を忌避したり、非難する言動は慎まなければ。私はそう考えます。被災地の方々の放射性物質低減と産業再生への努力を知ってほしいのです。皆さんはどう考えますか? やっぱりゼロ、を追い求めますか?
福島県・肉用牛繁殖農家及び酪農家の緊急立入調査結果についてhttp://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/chikusan_shinsai-gyuniku110806-2.pdf
社団法人日本草地畜産種子協会
「飼料から牛肉への放射性物質の移行の考え方」の解説
http://souchi.lin.gr.jp/pdf/news20110629.pdf
林野庁・野生きのこを採取される皆様への注意喚起について
http://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/yaseikinoko.html
水産庁・魚介類についてのご質問と回答
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/Q_A/index.html
厚労省・食品中の放射性物質の検査について
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/shokuhin.html
農産物に含まれる放射性セシウム濃度の検査結果
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/s_chosa/index.html
ふくしま新発売・農林水産物モニタリング情報
http://www.new-fukushima.jp/monitoring.php
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