2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2011年10月6日

アップルが再定義するテレビ

 ジョブズ氏はこれまで「テレビの開発・製造はビジネスとして魅力的ではない」「(現在展開しているネット接続機器の)『アップルTV』はホビー(おもちゃ)」と、強調してきた。しかし、音楽の世界でハードも流通の仕組みも変えてきたように、テレビを軸に映画やアニメ、アプリケーションソフトでハードとソフトを融合し、ユーザー本位の使いやすいものに変えることができれば、大きな市場が開けてくる。

 ジョブズ氏はスマートフォンやタブレットにも最初は批判的だったが、その後、参入した。「アップルが考えるテレビのあるべき姿」をいつ示してテレビを再定義するか、タイミングを探っているともいえる。次の製品を送り出す役割は、クック新CEOに委ねられた。

 もう一つ。クラウド事業の成否の行方もクック氏に委ねられた。アップルは各種ハードを提供し、音楽や動画の配信インフラもおさえているが、ユーザーが日常的に利用するアプリケーションをおさえたとは言い難い。そのうえにグーグルやアマゾン・ドット・コムが音楽配信を始めたり、フェイスブックも音楽配信に関心があるようだ。

 iPhoneやiPadを購入したユーザーの大半はグーグル(gmail)やマイクロソフト(hotmail)、ヤフーなどの無料メールサービスを使っている。ネット検索や画像検索、カレンダーや地図表示など、機能が充実したこれらのサービスに、アップルは「MobileMe」で対抗したが、結局、敗退した。

 この秋、本格開始するクラウドサービス「iCloud」で、アップルはMobileMeのサービスを引き継ぐとともに、自分がもつ複数のアップル製の端末のうち、例えばiPhoneで音楽を購入したら、自宅のiPadにも自動的にダウンロードして、いちいち面倒なアクセスや接続をしなくても、いつでも楽しめるような仕組みを実現する。ユーザーにとって不便な点を改善し、囲い込みを強化する。

 クックCEOのもとで、iPhoneとiPadの新製品もこの秋以降、順次発表されることになる。ジョブズ氏辞任で発表翌日の25日に急落した株価も、26日には辞任発表前の水準に戻り、再び、エクソンモービルと時価総額世界一を争っている。業績面でも、しばらく快走が続くだろう。

流動化をはじめる業界の勢力図

 しかし、ジョブズ氏が去った後のアップルが、これまでのアップルと同じアップルであり続けることができるかどうか。クックCEOがスタイルの違いを越えて、徹底したユーザー視線と、アイデアの絞り込み、事業面での集中―といったジョブズ氏が果たしてきた役割をどれだけ果たすことができるか。ジョブズ氏が描いたロードマップが途切れた後も、未来を描き続けながら、創造的破壊を繰り返すことができるか。疑問と懸念が残る。


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