アップルをはじめ、IT業界を取り巻く環境は、リーダー交代にともなう試運転の時間的猶予を許さない。ヒューレット・パッカードのレオ・アポテカーCEOは就任1年もたたないうちに主力事業のパソコン部門を分離することも含めたリストラ計画を発表した。
グーグルの創業者ラリー・ページCEOは就任直後からスマートフォン向けOS「アンドロイド」を巡る特許紛争に頭を悩ませ、経営破綻した通信機器大手ノーテル・ネットワークスがもつ特許の買収で、アップルとマイクロソフトの企業連合に負けるやいなや、老舗の通信機器大手モトローラ・モビリティの買収に動いた。
ジョブズ氏がいなくてもアップルは輝き続けるのだろうか。ライバルたちは息を潜めて、アップルの動きを注視している。長年のライバル、マイクロソフトも「ウィンドウズ」などの単品ソフト販売に頼った事業構造を転換し、ネット経由で各種アプリケーションを利用できるクラウドサービスに軸足を移そうと必死だ。企業向けクラウド事業強化をにらんだネット通話大手スカイプの買収では、経営から退いて慈善活動に注力していたはずの創業者のビル・ゲイツ会長が強く意見を表明。ゲイツ氏が再びアクティブに動き出す可能性もある。ゲイツ氏はウィンドウズの開発者でありながら、「マック」ファンとしても知られ、アップルが経営危機に瀕した97年にはマイクロソフトがアップルに出資して支援。ジョブズ氏とも親しい。アップルが窮地に陥った場合、再び支援に動くか―。
スマートフォンで激しく競合するグーグルや、アップルが出遅れたSNS分野で急成長しているフェイスブックはどう動くか。アップルの存在感が揺らぐようならば、競合は有力アプリ開発者を取り込んで、ユーザーを奪っていく。
ジョブズ氏は05年6月、スタンフォード大学の卒業式で伝説的なスピーチをした。「ハングリーであれ、愚かであれ(ステイハングリー、ステイフーリッシュ)」という結びの言葉が有名だが、それ以外にもジョブズ氏の人生観を垣間見る内容にあふれている。「死は生命にとって最高の発明です。古きものを取り除き、新しいものに道を開く変化の媒体なのです。新しいものもいずれ、古きものとなり、取り除かれる日が来ます」。
ジョブズ氏辞任後のアップルは新しきものとなるのか、それとも会社自体が古きものとなってIT業界の世代交代の波にのまれて衰退していくのか。ジョブズ氏辞任で勢力図が流動化する兆しが出てきたことだけは確かだ。
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