2024年12月4日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年2月14日

 3つ目は、トランプがペロシを叩く手やあだ名を見つけられないのにくらべ、ペロシは、年配の女性であることも利用しトランプの強いというイメージに穴をあけている。トランプにとって壁は「男らしさをみせるためのものなのよ」と言い、また、政府閉鎖が続き、トランプがそれでも壁建設費を求め続けると、それはまるで「癇癪」、「私には子供 5人と孫9人がいる。子供のわがままな癇癪かどうかはすぐわかるのよ」と、トランプを子ども扱いした。 

 4つ目の誤算は、不動産のディールは取引が終われば次に移るが、政治の世界では同じ人々と何度も駆け引きをし、勝負を繰り返さなくてはならないことだ。トランプはこの全く違う環境を理解できていないとされる。 

 5つ目は、ララ・トランプ(次男の夫人)が政府閉鎖はちょっと痛みがともなうけどアメリカの将来のためと言ったり、贅沢好きで知られるロス商務長官がフード・バンク(注:生活困窮者への食料配給サービス)に並ぶ連邦職員について、食費がないならローンを組めばよいと述べたりして「マリー・アントワネット」発言をし、億万長者政権は庶民に対する理解が全くない、という印象を与えたことだ。 

 今回、トランプ大統領は、来年の再選に向けて、大きな痛手を受けた。

 取引に長けているというイメージを大きく傷つけられ、最も重要な公約を守 れず、トランプが支持者を失望させたのは間違いない。トランプの支持基盤に多大な影響力のあるアン・クルター、ブライトバート、フォックス・ニュースをはじめ超保守派メディアの一部から「トランプ屈服」などと厳しい批判の声があがったことも、これまでの支持者を減らす要因となる。長引いた政府機関一時閉鎖の結果、ト ランプの支持率が落ちたが(1/21-24ワシントン・ポスト/ABC調査では37%)、さらに支持率が下がる可能性がある。 

 トランプは、国家緊急事態宣言を利用して壁を建設すると述べているが、法的根拠が弱く、この手法への支持も低い(キニペッグ調査1/9-13で32%)。また、2月15日までに57億ドルの壁建設費を議会が承認する見込みもない。 

 一方、モラー特別検察官の調査がいよいよピークを迎え、トランプの元個人 弁護士から初代国家安全保障特別補佐官までが司法取引をし、今回闇の世界の 大物として知られるロジャー・ストーン元顧問までが検挙され、トランプは追い詰められた感がある。 

 今回の件で、2020 年に向けトランプが大きく躓いたのは間違いない。いかに挽回をはかろうとするか見どころであるが、注目を浴び、支持者の賛同を得ることだけを目的とする政策を打ち出すことが懸念される。
 

  
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