2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年2月14日

 政府機関一部閉鎖を招いた壁建設費獲得を巡る戦いは、トランプ大統領の敗北、ペロシ下院議長と民主党の勝利で第一ラウンドが終わった。トランプ大統領にとっては、2020年に向け支持基盤にひびをいれた大誤算だった。 

(AVNphotolab/jon11/iStock)

 トランプ大統領がここまで事態が悪化するまで壁建設費にこだわった背景には幾つかの事柄が考えられる。

 1つには、壁建設は単に選挙公約の一つを守るという以上の重要性があることだ。それは、超保守派、人種や宗教面で多数派でなくなることに危機感を抱く人々、グローバル化に取り残された人々などの気持ちを表現し、絶大な支持を得た理由でもあった。 

 2つ目は、普通の政治家は支持基盤を拡大しようとするが、トランプは、既存の支持者のみに的を絞り、それ以外の人々に関しては逆にあえて反発を煽ろうとすることだ。つまり、支持基盤を失わないことはトランプにとって普通の政治家よりさらに重要である。12 月中旬、今回可決されたのと同様の壁建設費を含まないつなぎ予算を上院が可決し、大統領はそれに賛同する姿勢をみせていた。法案に署名していれば政府機関一部閉鎖は免れたが、大統領が頼りにする超保守派のコメンテーターらの猛烈な反対にあった。支持者を失う恐れから、その後トランプは頑なに妥協の道を閉ざした。 

 3つ目は、建設費削減あるいは壁建設費を含まない予算を認めれば、それは「負け」と映ることだ。勝ち負けの勝負のみが基準であるトランプにとって、「負け」は受け入れられなかった。 

 トランプ大統領の誤算は次の通りである。

 1つ目は、支持基盤に多大な影響力のある超保守派コメンテーターたちから、これほどの批判を受けるとは思っていなかっただろう。トランプは、ラッシュ・リンバウに電話し、壁建設費を含まない予算案には絶対合意しないと約束したと言われる。 

 そして、2つ目、最大の計算違いは、ナンシー・ペロシ下院議長だった。下院議長当選二度目、初の女性下院議長、裕福なビジネスマンの夫とともにカリフォルニアの民主党世界の中心にいるペロシ議長。政府機関の役割や仕組みに無知なトランプと違い、ペロシは議会の機能を熟知し、その利用の仕方、ホワイトハウスとの勝負の仕方を知り尽くし、また寄付の獲得や自党の掌握には右に出るものがいない。トランプは、民主党が分裂しなかったことは大きな計算違いと述べている。また、一般教書演説延期という一手にも、トランプは足をすくわれた。 


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