2024年7月14日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年2月21日

 上記の通り、ポンペオ米国務長官は、2月1日、米国はINF条約(中距離核ミサイル廃棄条約)の義務履行を停止すると述べ、条約破棄通告を正式に行った。条約は通告後6か月で廃棄されるが、この6か月間のうちにロシアが条約順守に立ち返れば、廃棄通告を取り下げるとしている。しかし、ロシアは条約には違反していないとしている以上、問題の巡航ミサイルを条約の禁止しているミサイルであると認めることはありえない。

 2月2日、ロシアもINF条約の義務履行停止を声明した。従って6か月後に冷戦終了のきっかけにもなったINF条約はなくなることになるだろう。 

 中距離核ミサイルの分野でのミサイル開発競争が始まることは、米ロ共に新兵器開発の意図を表明しているので確実である。中国は、もともと中距離核ミサイルを保有しているから、この軍拡競争に最初から参加している形になる。 

 1980年代、ソ連がSS-20を欧州とアジアに配備し、米国と欧州の安全保障が分断されると、シュミット西独首相が騒ぎ、結局パーシングIIと地上発射型巡航ミサイルの欧州への持ち込みが行われた。その後、SS-20とパーシングII などの同時廃棄でグローバル・ゼロの INF条約ができたが、その条約がなくなれば、条約ができる前の状態に戻ることになる。日本に対するロシアのINFの脅威は当然出てくる。

 中国、北朝鮮の同種のミサイルの脅威も引き続きある。日本の安全保障への影響と対応を検討する必要が出てくるだろう。 

 米国とNATOは、ロシアが違反していると言っているが、ロシアは違反していないと言っている。INF条約は禁止されるミサイルを定義しており、問題になっているロシアの巡航ミサイルがその定義に入るか否かは検証できることである。なぜ、そういう、いわば簡単なことについて、米ロが議論を通じて合意に達することができないのか、不思議な気がする。ロシアの開発した巡航ミサイルの射程などは、米国が自分の衛星写真を分析すればわかることである。ロシアが嘘を言い張ることもあるが、すぐばれる嘘はそんなに言わない。 

 INF条約は上院で 3分の2で承認された条約である。その廃棄は上院の許可なしに行えるのかというと、INF条約には廃棄条項があるので、それに従う限りできるということだろう。しかし、NPT条約(核不拡散条約)同様、廃棄は自国の至高の利益が脅かされた場合にできるとなっており、これを根拠に、上院が、大統領は欧州やアジアへの脅威の増大をもたらす違反を理由に廃棄するのは権限逸脱という議論はありうるだろう。ただ、米ロ両政府が条約の義務履行を停止するとしている中で、この議論はアカデミックな意味しかない。 

 米ロ間の相互不信が強くなっており、2021年2月に失効期限を迎えるSTART(戦略核兵器削減)条約の更新もできなくなる可能性は高い。INF条約のみならず、冷戦中から築き上げられてきた米ソ、米ロ核軍縮体制は崩壊する可能性が高いと判断して良いと思われる。 
 

  
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