2024年11月25日(月)

From NY

2019年2月27日

 加えて牛、豚、鶏などを育てるために使用されているホルモン剤、過剰な抗生物質などが人体に及ぼす悪影響についても、多くのリサーチ結果が報告されてきた。

 WHO(世界保険機関)も、肉および加工された肉製品は、各種ガンのリスクを高めると正式に報告したことも、大きなニュースになった。

 20年ほど前に、低炭水化物、高脂肪、高タンパク質の摂取を推進したアトキンズ・ダイエットというのが大ブームになり、一時はステーキの人気が復活しかけたこともある。

 だが2003年に提唱者のアトキンズ博士が何度か心臓発作を繰り返した後に急死し、ブームは瞬く間に去った。

(写真撮影:岩崎有里)

人道的な観点からも

 ついでに言うなら、何でも動画で簡単に社会に発信できるソーシャルメディア社会も一役買っている。

 肉を柔らかくするために身動きできないよう、鉄の鎧のようなものをつけさせられて一歩も歩くことのできない仔牛の悲惨な姿がSNSで拡散して以来、仔牛肉の人気がガクッと落ちた。

 いずれは食肉になる運命ながらも、その日が来るまでのんびりと動物たちが牧場で草を育んでいたのは、すでに過去の話。現代の非人道的な工場畜産業に対する非難の声も高まって、肉を食べるのをやめたニューヨーカーも少なくない。

 そういった工場内部で生産した家畜たちと区分するために、きちんと太陽の光を当てて身動きがとれる環境で「人道的に育てた」という「Humanely raised meat」トレードマークまで登場している。

 さらに牛や豚を飼育することで大量のメタンガスが発生し、地球温暖化が加速されるという統計も出ているのである。人々が週に1日、肉を食べない日を作るだけで環境保護に貢献できるという。

 こういった様々な理由から、一般的にニューヨーカーにとってステーキというのは「Coolな/カッコいい」食べ物ではなくなったのだ。

ステーキは保守派の食べ物?

 それでも中には、ランチからステーキを食べる一部のニューヨーカーたちもいる。

 ちょっと出始めたお腹をばりっとした仕立ての良いスーツの前ボタンでしっかり隠した、エリートビジネスマンたちである。

 ステーキハウスといえば昔から、保守派の中年男性たちがたむろする場所と相場は決まっていた。メイクアメリカグレイトアゲイン、というスローガンが好きそうな、(今は飲食店全て禁煙になったのでさすがに見なくなったもののかつては葉巻をくわえていた)中年男性たちである。

 こういう人々は、健康志向などほとんど気にしない。たとえ病気になったところで、一流の医者にかかる財力もある。命はお金では買えないんですけど、などというのは大きなお世話なのだろう。

 こういう人々が行くのは、前述の老舗Peter LugerやBenjamin Steak House, Quality Meatなど、高級なステーキハウスである。食前酒にマーティーニ、巨大なステーキと一緒に高価な赤ワインを堪能する。そういえば、知人がトランプ一家がKeen Steakhouseに勢ぞろいしたところに遭遇した、と言っていた。

 そもそも接待経費で食べている彼らは、懐の心配など無用なのである。

安いステーキの需要が薄いニューヨーク

 「シズラー」「アウトバックス」「テキサスBBQ」など、安くて気軽にステーキを食べられるチェーン店もあるものの、入っているのは地方からやってきた観光客ばかり。ほとんどのニューヨーカーにとっては、無縁の場所だと言って良い。

 だから「いきなり!ステーキ」で、お手ごろ価格で美味しいステーキが立ち食いできる、と言われても、喜び勇んで食べに行くという社会層がニューヨークにはあまりいないのだ。むしろダラスやアトランタなど、地方都市のほうが向いているかもしれない。

 それよりこのところ「Omakase」ブームで高級化していく一方の寿司を、気軽に美味しく食べさせてくれる高品質の回転寿司チェーンでも進出してくれないだろうか。というのが、大部分のニューヨーカーにとっての切実な願いではないだろうか。

  
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