アメリカの地方都市に住んだことのある日本人が、ニューヨークに来ると必ず口にする感想がある。
「ニューヨークには、太ってる人が少ないですね」
そうなのだ。ニューヨークは、フィットネスおたくの街である。
現在のアメリカの大人の肥満率はおよそ70%と言われているけれど、車社会の田舎に行けば行くほど、太った人が目につく。
筆者が高校時代を過ごしたノースカロライナでは、学校の教師も、生徒の両親も、郵便配達のおじさんも、教会の牧師さんも、みんな太っていた。日本人の感覚の「ぽっちゃり」ではない。びっくりするほどの巨体で、身体に悪いのではないかと心配になるほどの肥満体が、中年以降の平均体型だったのだ。
そんなアメリカの田舎の日常に慣れて、ニューヨークに来てみると、確かに太っている人は少ない。特にマンハッタンの高級住宅街に行くほど、姿勢もスタイルも良い人が増えていくのである。
フィットした身体がニューヨーカーのステタス
理由の一つはニューヨーカーは普段からよく歩くことだろう。どこに行くにも車に乗る郊外の生活に比べ、ニューヨーク市内の移動は基本的に徒歩と地下鉄。歩いていて飽きることないし、歩道も整備されている。ニューヨーカーは一般のアメリカ人の平均値の倍は毎日歩いていると思う。
加えて、肥満への厳しい社会の視線が根本にある。
ドナルド・トランプ現大統領は特殊な例としても、代々の大統領はこれまでみんな多忙なスケジュールの中からジョッギングなどフィットネスの時間を見つけ、体力づくりに励んできた。文武両道でなくては、アメリカでは本当のエリートとはいえないのだ。
ニューヨークのエグゼクティブに、太鼓腹はほとんどいない。ミッドタウンを早足で闊歩している人たちは、老若男女、全身がよく引き締まり姿勢もよく颯爽としている。高級ブランド品で身をかためるよりも、こうしたフィットした身体を保つことがステタスなのである。
もちろん市内中にフィットネスジムがあちこちにあり、会員費は月20ドルというお手軽な価格から、高級ジムでは月250ドルとピンきりだ。