もっとも、日本の経営者は為替変動を逞しく利用している面もある。11年前半の日本企業による海外企業買収件数は、円高の下で着実に増加している一方、対外直接投資も震災後、急増。日本企業は今回の円高を機に着実に国際化を推進し、海外で高収益を実現できる体質改善を行うことが肝要だ。
日本の製造業には「非製造業化」も不可欠。米国アップル社が好例だ。同社の米国での活動は、本社機能に加え研究開発など「頭脳」に徹し、生産は海外中心。提携企業を使って部品ごとに日・中・韓など世界規模で適地生産を行い、全体として高い収益率を上げている。日本もこうしたビジネスモデルを目指すべきだ。
こうした構造変化には痛みを伴う。国内の製造業が、生産を海外移転し「頭脳」に特化すれば、国内の雇用は厳しい影響を受ける。雇用の受け皿となるのは、大きくはサービス業であり、次に農業など第一次産業だ。
しかし、現在の状況では、サービス業、農業にこうした雇用の受け皿としての機能は期待し難い。政府の役割が重要となるのはここだ。既成のサービス業の収益力強化と、新たなサービスの創出が必要だ。農業についても「強い農業」を育てる必要がある。そのために必要なのは、規制緩和と開国である。
新たな事業が参入しやすいよう自由化し、加えて規制緩和により事業の自由度を拡大させることが必要である。新事業を開始する際に必要な行政手続は大幅に簡素化すべきだ。被災した東北地方に特区を設置して企業を誘致し、法人税を軽減するのも一案だ。あるいは、沖縄に金融や医療・介護の特区を設置して、そこで新たな産業を創出しても良い。実際に規制緩和と低い法人・所得税率で経済成長を遂げたシンガポールを見ればその成果は明らかだ。
さらに、日本の競争力を高めるには、優秀な人材をいかに育成しヒューマンキャピタル(人的資源)の蓄積を図るか、という視点も欠かせない。グローバルな人材を新興国が数多く輩出している状況下、日本が現在の教育でグローバルな競争を勝ち抜くのは難しい。アジアの中で相対的に高い日本の所得水準の維持が困難になりつつある。
国内の教育の質の向上が必要なのは当然だが、同時に海外の優秀な人材(新しい知恵)を呼び込めるような「開国」も必要だ。外国人を日本に転勤させようとしても、事実上家族の一員であるベビーシッターは入国できない、といった話はよく聞く。世界的に見て突出している障害は取り除くべきだ。
実を伴った成長戦略
開国へ舵を切れ
こうした問題点については以前から指摘されてきた。自民党政権時代も、対内直接投資の増加を重点政策としたが、成果はほとんど見られなかった。
民主党政権でも、「成長戦略」の一環で「平成の開国」が打ち出された。しかし、実際の政策は所得再分配が重視され、補助金のバラまきに終始。早急に実を伴う成長戦略、開国へ舵を切り、民間の活力を重視する政策に転換する時だ。再分配や補助金を否定するのではない。そうした手当ては、構造改革を行わずに既得権者にバラまくのではなく、構造改革によって生じる「痛み」に対して配布されるべきだ。
成長戦略はこれまで何度も検討され、実施すべきメニューはすでにそろっている。党内の勢力に配慮した「足して2で割るような政策」ではダメだ。経常収支が黒字のうち、つまりあと3年以内に経済成長率を高めるような構造改革を進展させつつ、消費税増税と社会保障の見直しを実行すべきだ。
時間切れが間近に迫っていることを理解する必要がある。
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