公立中学が挑む教育改革

2019年3月4日

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多田慎介 (ただ・しんすけ)

ライター

1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。著書に『「目的思考」で学びが変わる 千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』(ウェッジ)。

相手のことを考えないプレゼンは敗れ去ってしまう

工藤:私は澤さんと初めて会ったその場で「卒業記念講演をお願いしたい!」と思ったんですよ。いつもは何人かの候補を挙げて考え、時間をかけて検討するんですが、澤さんのときは初対面で頼んでしまいました。

澤:確かそのときにはプレゼンの極意について話をしていたんですよね。プレゼンというと言葉の中身や身振り手振りに目がいきがちだけど、それだけでは心に残るプレゼンテーションはできない。そんなことをお話していたと思います。

工藤:はい。「達人といわれるこの人は、技術でプレゼンしているのではないんだ」と感じました。そのときに伺ったプレゼンの極意には、私が思うリーダー育成のノウハウと共通するところが多々ありました。私はリーダー指導の際、生徒たちに「どんな人に向けて話すのか、自分が話すことで相手にどんな気持ちになってほしいのかを想像しよう」と語りかけるんです。

 

澤:まさに、僕が考えるプレゼンの基本ですね。

工藤:リーダーとして生徒が人前で話すときは、事前に話したい内容を書いてもらいます。そのときに「君を応援している人と、君を敵対視している人は、聴衆の中にどれくらいいるだろう?」と聞きます。

澤:応援している人と、敵対視している人。

工藤:はい。つまり「自分はどんなふうに思われているのか」を想像してもらうということですね。例えば自分が生徒会長だとして、みんなには「あいつが生徒会長になったのは肩書きや内申点がほしいからだ」と思われているかもしれない。そんなふうに思っている相手の話を、はたして人は聞くだろうかと。

澤:それって、実にリアルな「プレゼンの場における課題」ですね。大人の世界と同じく。

工藤:そうなんです。自分を敵対視しているかもしれない人に向けて、どうやって言葉を届けるのか。考えてきた原稿を書き直していきます。そうするとやがて、自分の本当の気持ちが出てくるんですね。「最初は『肩書きがほしい』『自分が目立ちたい』と思っていたかもしれない」「でも、実際にやってみると生徒会活動を本気で頑張る仲間がいて、自分も本気でやろうと思った」……。

澤:すごいなぁ。

工藤:そうやって一つひとつ言葉を選び出し、選んだ言葉の配列を考えていく、このことがプレゼンでは重要だと考えているんです。聞き手のことを想像し、自分の内なるフレーズを見つけ、伝えるべき順番を考えていく。こんなことを言うのはおこがましいし、失礼だとも思うんですが、「澤さんなら本質的に同じことを語ってくれそうだな」という思いがありました。

澤:いや、まったくもってその通りだと思います。プレゼンでは「自身のあり方」が大事なんですよね。だけど多くの大人たちは、プレゼンで「何」を説明しようとします。この製品は、このスペックは、この価格は……と。そうしたプレゼンしかできないと、まだ見ぬ競合がさっと現れたときにあっさり負けてしまうんです。

工藤:なるほど。相手のことを考えないプレゼンは敗れ去ってしまうんですね。

澤:はい。プレゼンの主役は常に「相手」です。私も工藤校長のように、人のプレゼンを添削することがよくあります。そのときに「『みなさん』を主語に置き換えてください」と言うと、大抵の人は詰まってしまうんですよ。お客さんを見ていないということです。相手方の視点を持つことでプレゼンは進化していく。でもこれを教えてくれる人がなかなかいません。なぜなら、現に大人たちがそうできていないからです。

≪中編に続く≫失敗の蓄積が、今の自分の価値を生んでいる

(撮影:稲田礼子)

多田慎介(ライター)
1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

  
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