「罪証隠滅のおそれ」に慎重に向き合った裁判所
本件では、裁判所は詳細な条件を付けたうえで、公判前整理手続が始まる前のゴーン氏について、保釈を認めるという判断を下しました。
法律の建前では、これは何も「異例」などではなく、当然の判断だといえます。
法律の条文では、被告人から保釈の請求があった場合「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」などの例外的な場合を除いて「許されなければならない」とされています。保釈は被告人の権利です。
それに対して裁判所の実務的な対応としては、特に否認事件の場合には、「罪証隠滅のおそれ」を理由に保釈を却下することが往々にしてあります。
裁判所は、具体的にどういった罪証隠滅のおそれがあるのか、すなわち、どういった方法で罪証隠滅が想定されるのか、容易に隠滅できるような状況にあるのか、罪証隠滅の現実的な可能性がどれだけあるのかなどについて、どのような判断をしたのかをあまり明確にしません。そのため、漠然とした理由で保釈が却下されたと感じる場面も少なくないです。
これに対して、今回のゴーン氏の保釈決定では、罪証隠滅を防止するために一見、過剰とも思える条件がついたようです。
これに対しては、必要以上に被告人の生活を制限しているという批判もあるでしょうが、その反面では、裁判所が、保釈が被告人の権利であるという原則に立ち返り、「罪証隠滅の現実的な可能性がどれだけあるか」を慎重に判断した結果だという評価もできるのではないかと思います。