カザフスタン・中国国境をまたぐ自由貿易地域(FTZ)の開発が遅れ気味だ。計画では今年の夏に開所の見込みだった。数カ月ずれるらしい。
だがこれも時間の問題で、両国関係は全体として深化の一途にある。面積で中央アジア最大、石油・ガスはもとより金、ウラニウムまで資源ならなんでもござれの国・カザフと中国の貿易は、双方向で邦貨換算1兆5000億円前後。720億円内外の日本は、影響力で中国の足元にも及ばない。
国境の町ホルゴス(新疆ウイグル自治区の霍爾果斯)がFTZになると、中国は何かと得をする。
カザフはロシア、ベラルーシと関税同盟を結んでいる。そのため中国製品は、FTZのカザフ側で少し加工し「カザフ製」のお墨付きさえ得たならば、有望消費地ロシアへ関税ゼロで入っていける。そこが利点だ。
カザフ・中国国境
西域の深圳になる?
FTZとなって寒村が一変、香港に隣接する地の利を活かし巨大都市となった深圳という先例がある。
ホルゴスとは古来シルクロード天山北路の要衝である。ここにできるFTZは、今後伸びるだろう中国の対中央アジア・ロシア輸出で潤い、第二の深圳になるとの読みまである。
西域の砂塵にかすむ蜃気楼さながら同地に高楼が立ち並んだ時、もしかするとホルゴスは地域の金融センターとして変貌を遂げているのではないか。そんな予測を説く向きすら現れた。
諸国で言う輸出入銀行に当たる中国進出口銀行は、カザフだけで既に20の案件に資金をつけ、融資残高は60~70億ドルに上る。中国には、中央アジア諸国へ今後100億ドル相当の新規融資をする方針もある。同行会長兼頭取の李若谷が言う通りその大半を元建てにする場合、ホルゴスが元決済を担う場となると、皮算用はそう弾く。
中央銀行相互間には元活用の準備がある。カザフ中銀の総裁グリゴリー・マルチェンコは最近「IMF(国際通貨基金)が元を国際通貨と認めた時は、カザフがもつ外貨準備の相当額をドルから元に移す」と公言した。
IMFがドル・ユーロ・円・ポンドを組み合わせ通貨の役割を持たせているSDR(特別引出権)の構成要素として元を加えた暁には、という趣旨か。ちなみにマルチェンコは、不祥事の嫌疑で失職した前任者の後継として、旧ソ連諸国がIMF専務理事候補に担いだ人物だ。相応の発言力をもつ。
カザフの外貨準備高はいま約725億ドルだから、邦貨にして数兆円分のドル売り元買いをするつもりである。加えてカザフ中銀と中国人民銀行(中央銀行)は、自国通貨を融通し合うスワップ協定を結んだか、まだならもうじきという段階にある。大国カザフがこの分だと、中央アジア全体が元決済圏となる現実性は確かに否定できない。