「心持ち」のイノベーション
このシンガポール人運転手が話してくれたことは、はっきりいって私は全体の35%ほどしか理解できなかった。でも、終始和気あいあいの雰囲気のなか、会話は途絶えなかった。実は他でも、似たような経験をしたことがある。5年前に独りでバックパックで世界一周の旅をしたとき、バンコクの裏道にある屋台ラーメンを、地べたに座って食べていたときだ。
横で座っている現地人のおじさんとなぜか目がよく合うので、わたしは簡単な英単語とボディランゲージを駆使して、「このラーメンおいしいですね」「僕辛い味が大好きなんです」「よくここに食べにくるんですか?」などと、意思疎通を楽しんで、これが旅の醍醐味か、などと独りにんまりしたものだ。このおじさんはにこやかに接してくれたが、私の話を100%理解していたとは思えない。
つまるところ、日本人が実践的英会話力を身に着けるのに今必要なのは、高額の英会話教室や聞き流しテープ、もしくはAI搭載アプリではなく、「心持ち」ではなかろうか。「文法や発音を間違えてでも、あなたと意思疎通したいんです。私の英語力が原因であなたに無用な誤解を与える可能性にも恐れず、会話を楽しみながらそれでも釈明し、やはりあなたと意思疎通したいんです」という心持ちだ。そしてまず、35%の意思疎通達成からスタートできれば充分上出来に思う。
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