のべ百万人が熱狂する媽祖巡礼
そんな媽祖のパワーを最も身近に体感できるのが、台中郊外の大甲(たいこう)という町で催される「媽祖遶境(巡礼)」です。大甲は人口8万人ほどの小さな町ですが、中心部に媽祖信仰の総本山のひとつである「大甲鎮瀾宮(たいこうちんらんぐう)」が建っています。
ここでは媽祖の誕生日である旧暦3月23日に合わせ、媽祖の神像を載せた神輿が各地を練り歩きます。全行程は8泊9日間で、この間に大小80ヶ所以上の媽祖廟を訪れます。その走行距離は往復340キロ。驚くべきことは巡礼者の数。一部区間だけを参加する人も含めると、のべ100万人に達すると言われています。筆者はここ十年ほど、毎年こういった巡礼を取材していますが、その規模は想像を遥かに超えてしまい、全体像がつかめません。世界級の宗教イベントの一つであることは確かです。
儀式の中で最も目を引くのが「鑽轎脚(ぬんきょうかー)」と呼ばれるもの。これは媽祖の神輿に跨れると、福が満ちると言われ、神輿が近づくと、沿道の人々が一斉に列をなして道路に身を投げ出し、ひれ伏します。時には100メートルも行列が続くこともあります。
皆、慌ただしく、一心不乱に地面にひれ伏すので、頭では理解していても、その場の空気に圧倒されます。これは誰でも参加できるので、筆者もこれを体験してみましたが、不思議なほど清々しい気持ちになりました。そして、周囲の人々はみな晴れやかな表情をしており、不思議な一体感が生まれます。「それもまた、媽祖様のお力なのよ」と言っていた年配女性の言葉は今も耳に残っています。
ちなみに、神輿のスピードは意外と速いので、躊躇しているとせっかくのチャンスを逃してしまいます。行列を見かけたら周囲の人にならい、サッと列に加わり、道路にひれ伏してみましょう。