日本が利用すべき「二国論」のレトリック
「1949年に建国された中華人民共和国は、未だかつて中華民国が支配する台湾本島、澎湖諸島、金門島、馬祖島を統治したことはない。我々中華民国は1991年の憲法改正により、その統治の効力が及ぶ地域を台湾に限定することとした。同時に、中華人民共和国が合法的に中国大陸を統治していることを認めたのである。
さらには、立法院および国民大会の民意代表は、台湾の有権者からのみ選出することにした。つまり、人民を代表し、国家を統治する権力の正当性は、台湾の有権者によって授権されたものであって、中華人民共和国とは全く関係のないものなのだ。
1991年の憲法改正以来、両岸の関係は、国家と国家の関係に位置づけられた。少なくとも特殊な国と国との関係である。決して一方が合法的な政府で、もう一方が反乱団体だとか、あるいは中央政府と一地方政府という『ひとつの中国』を前提とした内部の関係でもない(後略)」とした。
この質疑に加えて、より重要なのは、「それゆえに、台湾は改めて独立宣言をする必要はない」としたことだ。すでに台湾は実質的には国家として独立しているのだから、今さら独立宣言をする必要はない、という論法である。こうした姿勢は、現在に至るまで、暗黙のうちに台湾が堅持してきたようにも思える。
つまりこの「実質的な独立」をいかに維持していくかが、中国との距離を置くうえで重要であるし、日米が警戒する「一方的な現状変更」を脅かすものでもない。繰り返しになるが、台湾が中国とは別個の存在として、実質的に独立していることは、日本にとっても大きな意義を持つ。
大切なのは、台湾と価値観を共有する日本をはじめとする民主国家が、台湾に対して「外交関係がないから」といって二の足を踏むのではなく、「実質的に独立した」台湾といかにして実務的な関係を築けるかに知恵を絞ることではあるまいか。
李登輝が、文字通り知恵を絞ってひねり出した「特殊な国と国との関係」というレトリックを、日本は大いに利用してよりいっそう日台関係の強化を図るべきである。
ちなみに、この「特殊な」という文言は、国際法で使われるラテン語の用語の日本語訳ということだが、李登輝によると「当時、日米台で、持ち回りで行っていた明徳プロジェクトという政府間の秘密会議があった。水面下でいろんな情報交換をしていたんだ。そこに出席していた日本の外交官の発言からヒントをもらって、この『特殊な』という文言を思いついたんだ」ということである。
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。
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