ラマポーザが立ち向かうべき「怨念」
ラマポーザ大統領の前に立ちはだかるのはそれほどの難事だ。何と言っても、身内のANCに多くの敵がいる。9年にわたるズマ政権の間、ANCにはその甘い汁をたらふく吸った人物が今も多く残る。この既得権益層はラマポーザ大統領が振るう改革の刃に体を張って抵抗する。今のANCは、この既得権益層と改革派が激しいバトルを繰り広げているのだ。
ところが、ラマポーザ大統領が直面しなければならない難題は党内に止まらない。2013年に旗揚げした急進左派政党、「経済的解放の闘士(EFF)」が急速に力を伸ばしている。2014年、発足して間もないEFFは、総選挙でいきなり6.4%を獲得し世間を驚かせたが、それが今回10.8%と更に躍進した。国民の不満が過激な主張を繰り広げる急進左派に向かっているのだ。南アフリカは、最早生ぬるいやり方ではだめだ、過激な措置で一気に改革しなければならない、という。過激な措置とは何か。土地の強制収用だ。白人から補償なしに強制的に土地を取り上げる。今回、ANCが過半数を割ればEFFとの連立に追い込まれていたかもしれない。そうなればこの急進的な政策が真剣に検討されていたかもしれないのだ。
ところで、土地の強制収用はANCの中で古くから議論されてきたイッシューだ。それは党の基本路線に関わる重要問題である。1990年代、ANCは路線を巡り内部で対立した。白人財産を保全しこれと共存して虹の国を創っていくべきだとする穏健派と、それでは生ぬるい、白人の土地を取り上げて黒人に分配し、白人を国から追い出せとする強硬派だ。当時の南アフリカは対立が激化し内戦前夜ともいえる状態だった。それを救ったのがマンデラ氏だった。結局、人々はマンデラ氏の下に団結し、白人との共生を目指す路線が採用された。
しかし、強硬派の主張はその後もANC内にくすぶり続け、とうとう2013年ジュリアス・マレマ氏の離党、EFFの旗揚げにつながっていく。土地の強制収用は20数年来の問題なのだ。当時、マンデラ氏とともにこの問題を処理したラマポーザ氏の前に、これを声高に主張するEFFが再び立ちはだかる。
実は、これと呼応するかのように、今、南アフリカでマンデラ氏の評価を再検討する動きが出ているという。白人を追い出し、その財産を黒人に分配すべきだったのに、温情にかられ白人財産を温存した、マンデラは「国を売り渡した」のだ、という。無論、そう主張するのは少数派に過ぎず、国民の大多数は国を救った英雄としてマンデラ氏をあがめているのだが、この土地収用問題はいつになっても消えることがない南アフリカの怨念になりつつある。
その怨念の火がズマ氏の失政で再び燃え盛り、汚職にまみれたANCに我慢ならない人々をEFFに向かわせている。ラマポーザ大統領が立ち向かわなければならないのは、そういう独立以来の怨念である。いつまでもくすぶる怨念を消す役としてラマポーザ大統領ほどふさわしい者はいない。マンデラ氏の遺志を継ぎ、あくまで穏健派の主張を貫き通せるか。
それができた時、ラマポーザ大統領は初めてマンデラ氏の真の「意中の人」になるのだ。
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