2024年12月23日(月)

WEDGE REPORT

2019年5月28日

 5月25日、アフリカ民族会議(ANC)のシリル・ラマポーザ党首が南アフリカ大統領に再選され二期目の政権が発足した。5月8日に行われた総選挙ではANCがかろうじて過半数を制した。国民は、ラマポーザ大統領にもう一期やらせてみようと考えた。

南アフリカの大統領に再選出されたラマポーザ氏(写真:ロイター/アフロ)

前大統領時代の「悪夢」

 ANCの得票は57.5%。1994年に政権の座について以来25年、ANCが得票率6割を切るのは初めてだ。ANCと言えば、あのネルソン・マンデラ元大統領の党。南アフリカの悪名高いアパルトヘイトを撤廃に追い込み、政権を白人から黒人の手に取り戻した。つまり、「解放の英雄」の党だ。だから、ANCはこれまで圧倒的な強さを誇ってきた。2004年には得票率69.69%と、実に有効投票のほぼ7割を手中にした。これに対抗できる野党はない。いわばANCは南アフリカ政治を「独占」してきたのだ。

 しかし、独占には弊害がつきものだ。ANCは、自らに対抗する有力な野党がなく監視の目が行き届かないのをいいことに、数えきれない汚職を行った。あの悪名高いジェイコブ・ズマ大統領(2009年~2018年)の時だ。政府資産が恣意的に払い下げられ、汚職献金の対価として政府の主要ポストが提供された。本来、これを監視するはずの国家検察庁(NPA)等の国家機関が、次々と骨抜きにされ有名無実化していった。

 丁度この時、南アフリカ経済の凋落が始まった。一時、南アフリカはBRICSの一角に名を連ね、台頭著しい新興国としてもてはやされた。何と言っても、当時の南アフリカには勢いがあった。GDPは南アフリカ一国でサブサハラ・アフリカ諸国の実に3割に上った。その勢いをかって、同国小売業が我先にとアフリカ諸国に進出、当時、アフリカではどこに行っても、「南アフリカブランド」の商品が、「南アフリカ資本」のスーパーに並んでいた。

 その南アフリカが、ズマ大統領の治政下で凋落した。GDPは、2007年に5%を超えていたのが2018年には1%以下にまで低下、一人当たりGDPは低迷し、現在なお2013年レベルに達しない。南アフリカは、失業率が高く、格差の著しい国として有名だ。失業率は27.6%だが、15才から34才までの層に限ってみれば40%近くに達するし、これを更に黒人層に限れば失業率は優に4割を超える。

 つまり、若年層や黒人層の半分近くが仕事にあぶれている。格差は、上位所得者の10%が全国民の所得の55~60%を占め、国民総資産の90~95%を所有する。こういった指標は2009年以前も悪かった。それがズマ大統領の9年間に更に悪化した。実に、南アフリカは、ズマ大統領の下で、建国以来の栄光が一気に剥げ落ちる悪夢を経験したのだ。

 ラマポーザ氏が2018年2月、大統領職を引き継いだ南アフリカはそういう国だった。これはもう瀕死の病人といっていい。果たしてラマポーザ氏に救う手だてはあるのか。


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