2024年11月24日(日)

さよなら「貧農史観」

2012年1月18日

 「日本の農産物は品質が良いから高級マーケットで売れる」というつもりかもしれないが、世界各地で展開しているアンテナショップは、自慢話をしているようなもので、戦略的マーケティングとは言えない。むしろ日本国内向けのパフォーマンスに過ぎない。

 日本農業の対極にあるのが農産物輸出大国オランダである。オランダは10年に農林水産省と経済産業省を一体化する省庁再編を行った。行政による技術普及制度も廃止され、民間コンサルタントが農業の技術レベルを飛躍的に向上させている。花の卸売市場には世界中のバイヤーを集めて世界に冠たるマーケットで確固たる地位を築く一方で、官製の青果物卸売市場は廃止してしまった。

 世界で勝てるマーケット開発に取り組むオランダ。リードするのはワーヘニンゲン大学を中心に国内外の企業の研究機関や産官学のコンソーシアムである。これらが連携し、マーケット本位の農業・食産業を下支えしている。ワーヘニンゲン市に集積した研究機関を結び付けているのはフードバレー財団。政府は同財団の一会員に過ぎない。そんなオランダを見ると、政治と行政が支配する日本の農業界は、計画経済国家か途上国を思わせる。オランダに限らず、他の先進諸国の農業は産業化と技術・知識を集約化し、途上国もまたアグレッシブに世界市場に挑戦している。

 筆者がオランダを訪ねていた11月2~4日に同国で開催されたInternational Floriculture Trade Fair(IFTF)は、世界の花の育種家や生産者が出展する世界的な展示会である。日本からも農家を含め、多くの人々が視察に来ていたが、展示会に出展する日本人は皆無だった。オランダ国内はもとより、今や花の大産地になっている南米のコロンビアやケニア、北アフリカ、東南アジアの国々の出展が目立った。筆者にとって印象的だったのは台湾とタイの胡蝶蘭生産者たちだ。日本の胡蝶蘭の育種家たちが温暖な気候条件と安い人件費を求めて胡蝶蘭の組織培養の技術を指導してきた国々である。彼らは日本マーケットにも参入もしている。これに対して日本は、未だに「貧農史観」に基づく農業法制や農政によって農業の産業化が阻まれたままである。


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