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Washington Files

2019年7月8日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 そこで最近、大統領はじめ共和党再選本部が注視し始めたのが、全米有権者を「都会」「郊外」「農村・地方」の3ゾーンに大別した民主、共和両党勢力マップの変化だ。

 2016年大統領選の場合、「都会」=民主、「郊外」=引き分け、「農村・地方」=共和、という選挙結果となり、トランプ氏は明らかに中西部の農村票で差をつけたことで勝利をものにした。

郊外居住有権者の民主党シフト

 ところがその後、昨年11月にグリンネル・カレッジGrinnell Collegeが専門機関に依頼して実施した動向調査結果によると、トランプ支持率は「閑村地域」で61%とかなり高く、「スモールタウン」でも44%で依然として「不支持」を上回ったものの、前回五分五分の戦いだった「郊外」ではわずか41%にとどまり、「不支持」は50%と半数にまで及んでいることが分かった。また「都会」では「不支持」が59%に対し、「不支持」は31%と、これまでで最低だった。

 同様に、投資家向けビジネス情報サービスのInvestor’s Business Daily/TIPPが昨年12月発表した動向調査でも、トランプ支持率は「郊外」で32%、「不支持」60%、また「都会」でも「支持」27%、「不支持」67%と、惨憺たる結果となった。

 つまり前回選挙では「郊外」ではクリントン民主党候補と対等に戦ったトランプ氏だったが、その後、郊外居住有権者たちが民主党寄りにシフトしたことが明白になった。

 このことは、トランプ氏が再選を果たすには、前回以上の差で農村支持票を伸ばし、「都会」および「郊外」での劣勢をカバーすることが絶対要件であることを意味する。

 にもかかわらず、トランプ大統領は今年に入り、中国との貿易摩擦をエスカレートさせ、中国製品への関税引き上げ措置を矢継ぎ早に打ち出したため、中西部の農家や工場労働者の生活が脅かされる事態を招く結果となった。

 ブルームバーグ通信は去る6月12日、最近のギャラップ世論調査で、農村での大統領支持率が58%から54%に下がったことに言及「閑村農民たちがトランプを見限ったとみるにはまだ時期尚早だが、彼らの支持はぎこちないものになりつつある」として“黄信号”が灯っていることを指摘している。

 これより先、CNNテレビも5月18日、「米中貿易戦争」に関するニュース番組の中で、

  1. すでに中西部の農家、牧場主、零細店舗、学校教師といったかつてのトランプ支持者たちが対中関税引き上げによる諸物価上昇の痛みを感じ始めている
  2. 彼らはファーウェイ制裁により、同社製の安価なスマートフォンなどの通信機器を入手できず、より高価な米国ブランドを買わされることに不満を持っている
  3. ファーウェイ締め出し措置がエスカレートするにつれて、テキサスの炭鉱、ノースカロライナの家具メーカー、アラバマの大型工具メーカーなど幅広い業種が被害を受け始めており、ハイテク業界だけでも100万人の仕事が奪われる恐れがある―などといった厳しい現地リポートを伝えた。

 さらに、7月1日、政治専門メディア「The Hill」は、共和党にとって大いに気がかりな2020年大統領選予測を報じている。

 科学モデルに基づく選挙分析で脚光を浴び始めているクリストファー・ニューポート大学のレイチェル・ビテコーファー準教授の独自データを引用したもので、それによると、現段階での分析では、大統領選挙人538人のうち、民主党候補が過半数を上回る278人を獲得するのに対し、トランプ氏支持が197人、どちらともいえない選挙人が63人になるという。さらに注目されるのは、再選に欠かせない中西部ミシガン、ウイスコンシン、ペンシルバニア3州についても、同女史は「トランプ氏が苦戦」との分析結果を出していることだ。

 もちろん次期大統領選はまだ緒についたばかりであり、前回がそうであったように最後の最後まで予断は禁物だが、今年に入り、大統領にとって情勢はけっして楽観できるものでなくなりつつあることはたしかだろう。

 今回の米中首脳会談で、トランプ氏が一転して対中歩み寄りの姿勢に転じたのは、上記のような国内選挙情勢を意識しているからにほかならない。

 だとすれば、今後少なくとも来年11月の投票日までは、米中貿易戦争は「一時休戦」となる公算が大きい。

  
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