韓国の「読み方」

2019年7月8日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

幻の張り紙「日本人立入禁止」

 教科書問題が起きた01年には、ソウル都心の市庁前広場などに日本製品不買を呼びかける大きな横断幕が設置された。数十の市民団体が連帯して不買運動を訴える集会も開かれた。でも、実際には何も起きなかった。不思議に思った私は、韓国の報道で参加団体の筆頭に挙げられていたキリスト教団体を訪ねていった。すると、応対してくれた幹部は「名前を勝手に使われた」と不快げだ。さらに、そもそも不買運動というのは対象や目標を具体的に設定しなければ成功しないと力説した。自分たちは95年に、韓国市場を侵食する外国製たばこという特定商品の市場占有率を何%以下にするという具体的な目標を立てて、期間限定で運動したから成功したが、日本製品などという漠然としたイメージだけの不買運動など成功するはずないということだった。

 その時には95年の不買運動のてん末を知らなかったから、私もそんなものかと納得して帰ってきたのだが、実際に起きたことは前述の通り。この結果が成功体験として語り継がれるとしたら、どうなったら失敗と規定されるのだろうか。

 01年には韓国の英字紙が、ソウル中心部の繁華街・明洞(ミョンドン)の商店に「日本人出入禁止」という張り紙が出たという写真を掲載した。新聞を見た私は念のため明洞に行ってみたが、ザッと見て「どこにもないな」とすぐに帰ってきた。ソウルに住んでいるから色々な場所に出かけるが、そんな張り紙はどこでも見たことがなかったからだ。ただ日本メディアの中には熱心な社があって、英字紙の編集部にすぐ電話して「どこか教えてほしい」と頼んだという。ただ、その写真を撮ったカメラマンは出張中で詳細な場所は分からないと断られたそうだ。その話を聞いた私も掲載から10日ほどしてから編集部に電話してみたが、カメラマンはまだ「出張中」だった。ついでなので商店街の組合に問い合わせてみると、「そんな店は絶対にない。教科書問題の影響なんて全くないと日本の人たちに伝えてほしい」とお願いされてしまった。

 島根県が「竹島の日(2月22日)」条例を作った05年も、何も起きなかったことでは同じだった。在京独島郷友会など三つの市民団体がソウルで日本製品不買を訴える集会を開いた。この時は対象品目を「扶桑社歴史教科書、三菱、富士通、川崎、いすず」の5社に絞り、扶桑社の歴史教科書や三菱自動車の車などの写真に「不買」というステッカーの張られたパネルが掲げられた。「あたらしい歴史教科書」を出した扶桑社はともかく、他の会社をどうやって選定したのかは不明だ。私は「そもそも三菱自動車は韓国で売ってないんだけど」と思いながら見ていた。

 集会があったのは3月で、トヨタのレクサスはこの月の販売が落ち込んで「竹島問題の影響か」と言われたが、5月には輸入車販売トップに返り咲いた。4月にはソニー・コンピュータエンタテインメント・コリアが新しい携帯ゲーム機「プレイステーション・ポータブル(PSP)」の予約販売を2万台限定で実施したところ申し込みが殺到し、予定期間の半分の6日間で受け付けが打ち切られていた。

今回の措置発動後も日本酒フェスは大にぎわい

 13年は第2次安倍政権発足直後ということもあって、内閣府政務官を「竹島の日」式典に派遣したことが注目された。そして植民地支配への代表的な抵抗運動だった「三・一運動」の記念日である3月1日に、運動の象徴的な地であるソウル中心部のタプコル公園前で日本製品不買運動が宣言された。トヨタやマイルドセブン、ハローキティなどといった日本企業やブランドが描かれた大きなボードに、参加者が次々と生卵を投げつける。これは面白い絵になるのでカメラが集まってきたが、これも当然、この日限りの運動だった。

 この時には韓国人記者から「日本人記者として不買運動をどう思うか」と聞かれた。「どうせ一日で終わりだろ。今までだって、そうだったじゃないか」と答えると、「そうだろうねぇ」という言葉が返ってきた。彼らは分かっているのである。

 取材を終えてから、明洞にあるユニクロの大型店前へ向かった。買い物袋を手に店から出てくる人たちに不買運動のチラシを見せて感想を聞くと、ため息をつきながら「色々な人がいるからねぇ。こういうのに神経を使わない方がいいと思うよ」とか「不買運動なんて聞いたことない」と答える人ばかりだった。

 さて今回は違うのだろうか。日本の措置が発表されてから初の週末となった6、7日にソウルで開かれた日本酒フェスティバルは、入場料2万5000ウォン(約2300円)と有料ながら約7000人の客が集まった。日本の蔵元120の500銘柄をそろえた韓国最大規模をうたう日本酒イベントだ。日本酒輸入を手がける会社を韓国で起業し、今回も出展した熊谷謙さんは「2年前の前回より客入りが良くて、日韓関係悪化の影響は全くなかった。うちのお客さんたちは、政治は政治、酒は酒ですから」と話していた。韓国の日本酒ファンの特徴は他国より若く、女性が多いこと。会場での2日間の小売り用に準備した日本酒は初日に売り切れてしまい、追加で搬入することになったという。

  
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