なお、4月の最高人民会議以降、金正恩の軍に関する呼称は、従来の「朝鮮人民軍最高司令官」ではなく、「朝鮮民主主義人民共和国武力最高司令官」との新たな言い回しが採用されていたが、改正憲法でそのような表現が明記されたことが確認された。
<第102条 朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長は、朝鮮民主主義人民共和国武力総司令官になり、国家の一切の武力を指揮統率する。>
朝鮮人民軍は、朝鮮労働党の軍隊として党規約に規定されている。金正恩がその最高司令官であることは変わりないが、より包括的な概念として国家の「武力最高司令官」という言い回しを使うようになったようである。
経済建設と外交への注力姿勢も
今回の改正では、その他の箇所でも随所に変化が見られた。
一つは、対外貿易への意欲である。金正恩政権は、金正日時代の「先軍」路線から経済建設路線への転換を明示している。憲法には貿易に関する条文が以前からあるのだが、これを従来の「完全な平等と互恵の原則で対外貿易を発展させる」から、「信用を守り、貿易構造を改善し、平等と互恵の原則で対外経済関係を拡大発展させる」と改正した。信用を守ることの重要性を認識し、貿易構造を改善する意欲を示したものだ。
核を巡る米朝協議に進展がない限り、こうした意欲が実を結ぶとは考え難い。それでも、金正恩政権の描く理想像として知っておいてもいいだろう。
<第36条 朝鮮民主主義人民共和国で対外貿易は、国家機関、企業所、社会協同団体が行う。
国家は、対外貿易で信用を守り、貿易構造を改善し、平等と互恵の原則で対外経済関係を拡大発展させる。>
経済建設を追求しようとする姿勢が昨年来の外交攻勢の背景にあるのだが、それと関連して、最高人民会議に設置される委員会に「外交委員会」が明記されたのも目を引く。これまでの憲法に書き込まれていたのは、法制委員会と予算委員会だけだった。外交委員会は、2017年4月の最高人民会議で19年ぶりに復活したものである。
<第98条 最高人民会議は、法制委員会、予算委員会、外交委員会のような部門委員会を置く。
最高人民会議部門委員会は、委員長、副委員長、委員達で構成する。
最高人民会議部門委員会は、最高人民会議事業を党と国家の政策案と法案を作成したり審議し、その執行のための対策を立てる。
最高人民会議部門委員会は、最高人民会議休会中に最高人民会議常任委員会の指導の下に事業する。>
「最高検察所」や「最高裁判所」は、「中央検察所」「中央裁判所」への名称変更が行われた。これは、金正日時代に変更されたものを金日成時代の名称に戻したものだ。権限に変化は生じていない模様なので、大きな意味は見いだせない。
<第115条 最高人民会議常任委員会は、次のような任務と権限を持つ。
憲法、朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長命令、最高人民会議法令、決定、国務委員会決定、指示、最高人民会議政令、決定、指示に沿わない国家機関の決定、指示を廃止し、地方人民会議の誤った決定執行を停止させる。
中央裁判所判事、人民参審員を選挙または召還する。>
<第156条 検察事業は、中央検察所が統一的に指導し、全ての検察所は上級検察所と中央検察所に服従する。>