ISとの合併のシナリオ崩壊
ベイルートの情報筋などによると、アルカイダは過激派組織「イスラム国」(IS)が壊滅した後、その残党勢力を糾合して“新生アルカイダ”を創設、指導者にハムザを就け、欧米に対する新たな戦いを挑もうとするシナリオを描いていたのではないかという。しかし、ハムザが死亡したのが事実ならば、このシナリオは成り立たたず、組織にとっては計り知れない打撃だ。
ハムザにはテロ組織の世代交代にふさわしい2つの強みがあった。1つは伝説化しているオサマ・ビンラディンの息子というカリスマ性だ。医師でもあるエジプト人の現指導者アイマン・ザワヒリが地味で全くカリスマ性を持たないことを考えると、劇的な変化だ。
もう1つは母親のカイリア・サバルがイスラムの預言者ムハンマドにつながる一族の出身だという点だ。サバルはオサマ・ビンラディンの3番目の妻だが、イスラム教徒の間で、預言者の血筋というメリットは極めて大きい。組織を統率し、構成員を集めるのに威力を発揮するのは間違いない。ハムザをテロリストと警戒するサウジアラビアはこの3月、その国籍をはく奪した。
ハムザはビンラディンの約20人の子供の15番目。9・11の報復で当時のブッシュ米政権がアフガニスタン戦争に踏み切った時、父親に連れられてイランに逃亡した。その後、シリアやアフガニスタンなどを転々としながら成長。ビンラディンがシールズに殺害された際には、離れて生活していたため、難を逃れた。妻は9・11の実行犯モハメド・アッタの娘だ。
ハムザは2015年ごろから、「欧米の殉教志望者へ」といったテロを呼び掛けるメッセージをたびたび出しているが、現指導者のアイマン・ザワヒリが路線の違いからISとけんか別れしたのとは違い、IS批判を避けている点だ。しかも、テロの手段としても、爆弾や銃だけではなく、車など容易に手に入るもので実行するよう求めており、ISのやり方に学んだところが多い。
こうした柔軟な姿勢から、IS側にもハムザへの拒否感は薄く、アルカイダとISの統合の象徴になる可能性が大いにあった。しかし、このシナリオが崩壊したと思われる今、アルカイダは生き残りをかけて戦略の全面的な練り直しを迫られることになるだろう。
アフガニスタン・パキスタン国境にあると見られているアルカイダの本家にはほとんど実働部隊がいない。テロ組織として活動しているのは、イエメンの「アラビア半島のアルカイダ」や北アフリカの「マグレブのアルカイダ」、そしてシリア内戦で現在、最後の戦いを続けている旧ヌスラ戦線といった分派組織だ。ハムザを失ったアルカイダが組織を立て直すのか、消滅の道をたどるのか、その行く末が気にかかるところだ。
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