2024年11月22日(金)

ヒットメーカーの舞台裏

2012年2月15日

 1994年から一貫してアシスト自転車の制御システム開発に携わってきたベテランであり、回生充電装置も業界に先駆けて実用化した実績がある。数原は、今回のプロジェクトが立ち上がる時の三洋技術陣の心境を「これまでライバルとして競ってきた会社で開発に携わるのは、とても複雑だった」と代弁する。だが、三洋ブランドとしてのアシスト自転車の開発はすでに終了が決定されており、「われわれの技術を生かし、いい商品を出そう」と、割り切って前にこぎ出すことにした。

 回生充電の機構は三洋の技術とする方針だったし、バッテリーも性能は世界トップ級と評価される三洋のリチウムイオン電池が採用されることになった。ただ、混成チームでの設計が始まると、双方の技術者が戸惑う場面も少なくなかった。

 数原の担当分野でも、電動アシストの効かせ方で決まる「乗り味」に対する両社の考え方が相当違うことが分かった。数原によると「三洋の味付けは、アシストを最初にガンと効かせるタイプだったが、パナソニックは滑らかな走りだしを重視」してきたという。議論が熱を帯びることがあったものの、数原はパナソニックの伝統を尊重しながら、制御ソフトを設計していった。

 企業風土の違いから学ぶこともあったという。たとえば、問題が発生すると技術者同士が「闊達に言い合える雰囲気」などである。「われわれは、一旦目標が決まるとそこに向けて突っ走るタイプ」と数原は笑う。技術者には、これら両方の資質が求められるのだろうが、数原にはパナ流が新鮮に映った。

 パナソニックは家電などで、機械が自律的に電気の無駄使いを判断して節電する商品を社内認定し、「エコナビ」の商標を付けている。ビビチャージは、同社の自転車では初めてエコナビに認定された。三洋の回生充電技術があってこそであろう。

 数原の新たな挑戦は、パナソニックが欧州の自転車やバイクメーカー向けに供給している電動アシストユニットの市場開拓だ。各社の要望に応じたユニットを開発することで、販路や数量の拡大が期待できるという。三洋でもユニット輸出は手掛けてきたが、「規模はパナソニックの方がずっと大きいので、やり甲斐がある」。そう言って数原は、口元を引き締めた。(敬称略)

■メイキング オブ ヒットメーカー 数原寿宏(すはら・としひろ)さん
パナソニック サイクルテック 商品開発部 モータ開発チーム 参事

数原寿宏さん (写真:井上智幸)

1962年生まれ
兵庫県多可郡多可町に生まれる。理科や算数が得意で、大人しい性格の子供だった。地元の県立西脇高校に進学し、父親に買ってもらった望遠鏡で月や木星を眺めていた。
1981年(19歳)
神戸大学工学部電子工学科に進学。三洋電機の工場が同県加西市にあり、小さいときから馴染みがあったので、同社への就職を希望していた。天体観測が好きだったので、大学では天文研究会に所属した。
1985年(23歳)
大学卒業後、三洋電機に入社。掃除機、扇風機、空気清浄機など、モーターで動く商品を開発する回転機事業部の技術部開発課に配属される。大学時代の専攻を活かし、商品に使われる基板や回路の設計に携わる。
1994年(32歳)
電動アシスト自転車の回路設計を担当。当時、三洋ブランドでアシスト自転車は発売しておらず、モーターのユニットをOEM(相手先ブランドによる生産)生産していた。同社ブランドでアシスト自転車が発売されるのは2年後のことで、その開発には黎明期から関わることになる。
2010年(48歳)
パナソニック サイクルテックに三洋から出向。新シリーズ開発に取り組む。

◆WEDGE2012年2月号より


 




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