足立倫行のプレミアムエッセイ

2019年8月31日

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2人とも庶民出身の「感受性」豊かな兵卒

 水木さんと西崎さんは互いに面識はない。

 ただ2人とも庶民出身の「感受性」豊かな兵卒だった。もともと軍隊に対する偏見などなかったのだが、不器用な水木さんは古参兵に毎日殴られるうち、優秀な西崎さんも屈辱的リンチや軍人精神注入棒(樫の木)を身に受け、軍隊に対して違和感を覚えた。

 そして、「幻の玉砕」事件の生存者や、撃沈された空母〈信濃〉の生存者の扱いで理解した。軍隊組織の「体面」を保つため、兵士の命など虫ケラ同然に消されるのだ、と。

 そんな状況下で、誰のため、何のため、日本兵は命がけで戦うことができるか?

 西崎さんは15歳で出征する時、母親から「必ず生きて帰ってこい」と言われた。戦闘の修羅場でその言葉を何度も反芻(はんすう)したという。

 水木さんは野戦病院にいた時、現地人集落に頻繁に通った。芋や果物に囲まれ、踊って眠って少し働く生活。戦争が地獄ならそこは天国、ぜひこんな場所で暮らしたいと切望した。

 2人はたまたま同じ「奇跡の駆逐艦」に乗り合わせたが、2人が生き延びたのは「奇跡」ではなく、庶民が最後の「意地」を貫いたからではなかったか? 西崎さんの本を読んで、そんな気がした。

  
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