足立倫行のプレミアムエッセイ

2019年8月31日

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一人だけ生きた水木さんも「死」を強要された

 水木しげるさんのラバウル体験も同様だ。

 水木さんは、最前線のさらに先に分遣隊として派遣された際、豪軍とゲリラの襲撃を受け分遣隊長以下13人が死亡、歩哨に出ていて一人だけ生き延び、中隊まで逃げ帰った。

 ところが中隊長に叱責されたのだ。「なぜ死ななかった! 次は真っ先に死ね!」と。

 その後水木さんは空襲で片腕を失い野戦病院に移送された。だが原隊のズンゲン支隊で「幻の玉砕」事件が起きる。

 若いエリート大隊長が急に「死に場所」を求め斬込み玉砕を決断したのだ。大隊長以下380人余りが戦死したが、玉砕よりも遊撃戦を選んだ敗残兵が約140人発生した。

 玉砕戦では生存を許さないのが日本の軍隊である。

 師団司令部は参謀を派遣し、敗残兵の中の将校2人を自決させた。残りの将兵は監視下に置かれ、「次の戦闘での全員突撃、全員戦死」が強く要請されたが、その後大規模な戦闘はなく、4ヵ月後に敗戦を迎えた。

『総員玉砕せよ!」(講談社文庫)

 ※この「幻の玉砕」事件を2度目の玉砕があったように描いた水木さんの『総員玉砕せよ!』は、平成21(2009)年の仏アングレーム国際マンガフェスティバルで「未来に残したい漫画」の遺産部門賞に選ばれた。

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